酒落語

2011年10月19日 (水)

酒落語「中野土びな」

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えー、誘惑箇所の多い中、
いっぱいのお運び様でございます。
気楽なところを、一生懸命、書きますので、
お付き合いの程、お願い申し上げておきます。

えー、酒呑みのお噂ぁ……なんてものは、
えぇ、時分よくございますもので、
こと「酒落語」なんて題しておりますし、
このね、ブログタイトルだって「酒 宗夜」なんて申しますので、
酒呑みのお噂は尽きない、引く手あまた…と言った所でございます。
全部、行っちまうてぇと、おあしが出ますんで、
お噂伺いでお止まり様ァ…と、させて頂いておりますが。
えー、
本日のところは、酒呑みのお噂ではなく、
酒造りのお噂…
…お噂だなんて、早々あるもんじゃありませんが、
一席、お付き合いを願いまして…。

当節、長野県中野市においては、様々なお祭りがございます。
信州の北っ側に位置しておりまして、
長野市からは林檎畑の国道を抜けて参ります。
風光明媚、実にのんびりとした良い街でございます。

夏を前に、梅雨の頃合には、
薔薇の花が街中を彩りまして、たいへんに美しい。
「なかのバラまつり」がございます。
市内、一本木公園の650種類の薔薇が咲き競うんだそうで。
雨露に濡れる花々とは、かくも美しいものなのか。
薔薇なんてぇ花は、豪奢な様子であり、
どこかアダっぽさもあって、実に美しいもの。
ほら、棘もございましょう?ねぇ?
いやいや、廓噺じゃないんで、
そんなイロを申し上げるつもりは無いんですが。
夏は市民祭としまして、「ションションまつり」…
盆踊りの様な催しものですな。中野祇園祭なんてぇのもあります。

冬は雪深い土地でございますから、
ご存知でしょうか、雪深い象徴でね、信号機、
あの赤青黄色がね、縦長なんです。
皆さんがご覧になっている信号機てぇのは、横長でしょう?
それだと雪が積もって重みで、ひん曲がるってんで、
縦長になっているんです。

冬を過ぎますてぇとやって来るのは春です。
郷里の作曲家であります、中山晋平生誕祭もありますな。
「しゃぼん玉」や「てるてる坊主」、「兎のダンス」などの童謡、
流行歌から新民謡まで3000曲ほどを作曲した郷里の偉人です。
ご存知ですかね、スポーツの応援歌で「東京音頭」なんて言うのも、
中山晋平先生の作品なんだそうで。
流行歌には「カチューシャの唄」てぇのがありまして、
これにあやかったマラソン大会なんかも中野市では開かれておりますな。

中野市の春と申しますと、
信濃毎日新聞にも取り上げられる街を上げてのイベントがございます。
「中野ひな市」と申しまして、
中野市の伝統工芸品「中野土びな」のお祭でございます。
近い日程で、土人形絵付けコンテストも開かれておりましてね、
中野市の3月の終わりと言うものは、
街が土びな一色となり、これを済ませて春を迎える様な心持ちだそうです。
実際に地図でご覧になるなり、
よろしければ中野の街を散策して頂ければ、いちばんなんですが、
中野市には人形を扱うお店が実に多く存在してございます。
市内には、中野土人形資料館もございますし、
そうですね、
土人形の名人なんてぇ方の人形には、
購入希望のお客さんが殺到して抽選にもなるんだそうで。

えー、酒、日本酒てぇのは、
厳冬期、真冬の寒い時期に盛んに醸されるものです。
早いお蔵さんで10月くらいから、
春になって3月、4月にもなって参りますと、
「甑倒し」「どう転ばし」なんて言ってね、
米を蒸す作業が最後になるから、
使う道具を転がしておくんだってぇ事で、
造りみんな終えてしまうまで、もう一息なんて申しますよ。
もっとも、テレビで大きくコマーシャルを打って、
酒屋さんだけでなく、
スーパー、コンビニ、どこでもお見掛けする大手の日本酒なんてぇものは、
冬でなくても酒が醸せる環境を作っちまうんだそうで、
年がら年中、酒造りをして、
消費の為の供給を支えているんだそうです。
その為には大きな大きな設備が必要ですから、
なかなか出来る事じゃありませんから、ね、
多くの造り酒屋てぇものは、冬を待って、
酒造りに適した季節を待った上で、毎年の仕込みを行う訳ですな。

信州中野に「井賀屋酒造場」なる蔵元さんがございます。
小古井宗一杜氏…若い杜氏さんが、非常に熱心に醸しております。
表戸には「一滴入魂」と大きく書いてございまして、
酒の一滴一滴に魂を込める、魂を込めて醸すの意、
その文字に杜氏の心意気が見えますな。

ある寒い晩、夜更けに麹(こうじ)の様子を見に、
室(むろ)に入って作業をしている折、
トン…トン…と木戸を叩く音が致します。

*「もし、もし!」

*「もし、もし!」

杜「なんだい、こんな夜にィ」

*「土びなでございます!
  どうぞ、お開けください」

「はて?」と、
杜氏は開けようと、
手を掛けた引き戸、ピタッ…と止めます。
耳馴染みないの声、そして言葉の並び。
――土びな。
言われて、それが何の事だか…
分からない訳じゃありませんが、
しかし、なんのイタズラだか分からない。

こんな夜更け。
時計を見ると、「ははぁ」…頃合、丑三つ時でございます。

杜「そうか、きっと俺を驚かそうてなぁ腹だろう」

シンと静かに雪の降る寒ぅい晩でございますから、
多少の賑やかでも、まぁ、良いもんだろうと…。

杜「どれ、乗ってやるか」

杜氏が蔵の戸を開けますと、そこには誰もいない。
雪がシンシンと降りしきるばかり。
“あぁ、やっぱりなぁ”と思います。
「ワッ」と出て来て、脅かすつもりだろう。

杜「誰だーい?」

*「あたしですー。
  ここですー」

蔵の明かりが雪の上にサッと筋を作ります。
暗がり、雪の上が、いやにまぶしく映る中には、
見渡してみましても誰もおりませんし、出て来る気配も、またございません。

杜「おーい?」

*「はーい」

声は静かな蔵に響くばかり。

杜「なんだい、タチの悪ぃイタズラじゃねぇか!
  おーい!誰だーい!
  俺ぁ、麹の面倒を見なくちゃいけねぇ。
  暇な身じゃあねぇんだ!」

*「なら、あたしもいっしょに見ますー」

杜「誰だーい?
  丸さんかい、それともてっつぁんかい?」

*「ここです、ここ!
  旦那の股ぐらの下でさぁ」

姿はないが…と思って、
声のする方を…足元を見やると土びながいる。
ぽてっとした、福福しいお顔の大黒様のお人形。
大黒様は、これまたぽてっとしたフグに乗って、
杜氏の股ぐらの下におります。

杜「はて、こんな所に、誰が飾ったんだろうか」

土「いよっ、旦那ぁ!お初にお目に掛かります」

杜「おっわっ?!わわわわわ!
  しゃべった!?う、浮いた!?わわわわ!」

土びなは浮いて、
杜氏の目の高さまで、ふわりふわり昇って参ります。

土「そうです。しゃべるんです。浮くんです。
  どうも」

杜「ど、どうも?
  なんでぇ、最近の土びなてぇのは喋るのか。
  あっ、そうだ。どうせ誰かが、
  糸でもって、ツィーッと動かしてんだろ。
  誰だい!出て来なよぉ!」

フッ、フッ…と土びなの周囲に手をかざしますが、
杜氏の手は宙をさ迷うばかり。

土「いーええ、あたし以外、こちらには誰もおりませんよ」

杜「そ、その“あたし”が、こんな夜更けに、何の用だってんだい」

土「えぇ、お手伝いにあがりましてね。
  えぇ、入ってようがすか。
  寒いとねー、割れるなんて事はないんですがね、
  あんまりよろしい事もないもんでしてね。
  雪は解けると水になりますしねぇ」

ふわりふわりと杜氏の脇を過ぎ――…

土「はぁ、よいしょっと」

日頃、杜氏が拝んでおります酒造の神様、
「松尾様」の神棚に乗ります。
土びな、見てくれは大黒様ですから、
何だかありがたいものの様に感じられますが、
杜氏、こりゃあ、ひょっとすると、
狐か狸か、自然の多い土地ですから、
巣穴から間違って出て来て、俺を化かそうとしているんじゃねぇか…
…そう疑うのも、ごく当たり前の事で…。

杜「ええー、土びな様が、何の御用でしょう?」

土「へぇ、
  こちらは井賀屋さんですな。
  で、旦那が杜氏さんであらせられると。
  お酒造りの総責任者さんでございますな?」

杜「へぇ、そりゃあ違いないですが…
  狐狸妖怪のくせに、よくご存知で」

土「狐狸妖怪?
  あんなケダモノ風情と一緒にされちゃ困りますな。
  アタシは、えぇ、土びな協会からね、派遣されて参りました、
  フグの大黒と申します。
  れっきとした土びなでございます。どうも」

杜「ど、どうも…
  なんだい、どうも言う事が妙だね」

杜「協会ってなんだい、あれかい?
  町内のオジサンたちとか、人形店さんが組んでる…?」

土「いやいや、それは表向きってぇヤツですよ。
  あたしはね、
  正真正銘の土びなの協会員なんです。
  土びなの土びなによる土びなの為の協会なんです」

杜「えぇ?よぉく分からんなぁ。最近はそうやって化かすのかい?」

土「化かす訳じゃあありませんや。
  んー、お分かりになりませんかねぇ。
  主には――…ご存知でしょ?土人形資料館」

杜「おう、知ってるよ。すぐそこにあるじゃねぇか」

土「へぇ、そうです。
  あちらから雪の中を飛んで参りましてね。
  あのケースの中が集会場になっているんですがねー。
  まぁ、とにかく、功労賞って事でね。
  井賀屋さん所に行っておいで…と、
  土びなの神様が神通力をお与え下さいましてね。
  あたしがこちらにいる…なんてぇ事になっております」

杜「いやいや、待っておくんな。
  化けてんじゃねぇってぇと、夢か。
  俺ぁ、夢を見ているんだな」

土「おお、夢とお疑いですか。
  そうですか。
  でしたらぁ、あたしの乗っているフグにでも、
  向こう脛、噛ませましょうか」

言うか言わないかの内に、
大黒様が乗るフグがひらりと宙を泳ぐ…
…空を飛ぶんだか、妙な心持ちですが、
杜氏の元まで降りて参りまして、ひと噛み…。

杜「痛いッ!?
  夢じゃないー!?
  フグ、コンチクショウ!
  歯型が付いちまったよ。
  女につねられた後なら見せられるが、
  こんなもん恥ずかしくて、表ェ歩けねぇじゃねぇか!
  んじゃあ、あれだあれだ!
  俺ぁ疲れているに違えねぇ。
  な!酒造りの真っ最中だ。
  あんまり寝れねぇしなぁ!」

土「いよっ、そう!
  そうそうそう、それです!それなんです!
  そのお手伝いに派遣されて来たんです。
  あたし。
  ね、おわかりでしょう」

杜「求人を出した覚えはねぇぜぇ?
  それも土びなぁ、採用するなんざ聞いたことがねぇや。
  俺じゃねぇなら、うちの社長のツテか何かあるのかい?」

土「土びな協会のハローワーク経由ではないんでございます。
  協会では、毎年ィ年間功労賞を企画してましてね。
  本年度は、いよっ!井賀屋さん!
  杜氏の旦那が選ばれた……と言う事になっております!
  おめでとうございます!」

杜「めでてぇ…とは言うけどよ、
  俺ぁ、これっぽっちも身に覚えがねぇんだが…。
  酒造りが身上だ。
  土人形に労ってもらう仕事なんざしてねぇぜぇ?」

土「いやいやご謙遜を。
  見ている土人形は見ているんです。
  あの井賀屋さんに奉公に上がると大事にしてもらえる…
  …なんて滅法なお噂で。
  土人形の上総屋さんでも、
  “あぁ、あたし今度は井賀屋さんに上がりたいわぁ!”…
  …て、よぉく耳にしますよ~!」

杜「なんでぇ上総屋って、え?口入屋?土人形界の?
  なんだか、よく分からなくなってきた…」

土「ささ、蔵のお仕事がございましょう?
  お手伝い致しますんで、ささ、どうぞ蔵の奥へ。
  汚いところですが、どうぞどうぞ」

杜「お、おお、おいこら、俺の蔵だい。
  これっぽっちも汚くないぜぇ?
  酒造りは清潔第一なんだ!
  塵芥のひとつも落としちゃいねぇぜ!」

土「なるほど、流石は杜氏の旦那だ。
  さぁさぁ、胸を張っているお暇があるならば、
  蔵仕事にね、行きましょうや」

杜「おお、そうだな。
  麹の温度を見ている途中だったんだ。
  夢、見ている場合じゃねぇんだった」

土「麹の温度!
  いよっ!早速、私の出番ですね」

杜「出番てなんだい」

土「お手伝いさせてくださいよ」

杜「んー、なんだか妙な心持ちだなぁ。
  幽霊なのか化け物なのか分からねぇが、
  なんだい、お前ぇさん、手伝えんのかい?」

土「へぇ、その為に参りましたんで」

土びなは、ふわりふわりと宙に浮いて胸を張る…
…様に、声高に答えます。

杜「…浮いているなぁ」

土「へぇ、浮いておりますが。
  霊験あらたかな我が主の神通力のおかげでございます。
  こうしてしっかりご奉公させて頂きますんで」

杜「…まぁ、こうしちゃいられねぇや」

延々と話し続けていても仕事は進みません。
杜氏は溜飲の下がらないままとは言え、
大切な酒造りの手を止める訳には行くまいと、
麹室の重い扉を、グッと力を込めまして開けます。
外気の冷たさとは打って変わる室内。
蒸した様な空気の重さと、板張りの床を己が歩く音、
呼気の音だけが響く静かな世界。

土「おお、あったかいですな」

杜「そうだ。麹室ってぇのは33,4℃ある。
  湿度も調節してやらなくちゃいけねぇ。
  そこいらよりはずっと高めだ。
  ちょっと蒸すだろう。これが麹室って言うんだ」

杜氏が山盛りになっております米粒…
蒸米に麹菌を振り掛けたもの、
生育中の麹に刺さっております温度計を手に取ります。

杜「うん、温度が上がってきている。
  ここで切り返そう」

杜氏は山になっております麹を、
ザーッザザー…と広げて行きます。
満遍なく広げ、また戻すと言う作業。
麹菌が蒸米に入り込む中で熱が生まれます。
集まった所は熱く、外気と接する縁はそうでもない…
この温度ムラは麹全体の力の偏りになりますので、

ザーッザザー…

…それを均一にほぐしてやって、また山を造る。

土「ほうほう、杜氏の旦那ァ、
  手が真っ赤になって、熱そうですな」

ザーッザザー…

杜「熱いよ!作業しているんだ、熱いし暑くもならぁな!」

ザーッザザー…

土「なに、混ぜれば良いんですな。
  なら、ホッホ、ホゥ!」

フグ乗りの大黒が声を上げ指差しますてぇと、
杜氏が混ぜる蒸米のうねの隣を米がまるで波打つ様に、
ザーザーッと、大きなうねりでもって、
ザーザーッと、あっと言う間に混ざっていってしまいます。
これを見た杜氏はそりゃあ驚きました。

杜「おお!なんだ、こりゃすげぇや!
  よし、よし、ありがとう。その調子で、うんうん。
  じゃあね、また山にするから集めてくんねぇか。
  そうそう、で、布を持って来ておくんな。
  そう、そこに引っかかっているヤツ。
  そう、それだ。
  よーし、で、包んで、温度計を差す…と」

杜「すごいなぁ!あっと言う間に終わっちまったよ!」

土「どうでしょう。杜氏の旦那!
  信じて頂けましたかね。
  あたしを使ってくださいますか!」

杜「いやいや、こいつぁ驚いた!
  まぁ、夢だかなんだか分かんねぇけれど、助かるのは確かだ。
  なんだい、いつまで居るんだい。
  狐、狸は朝になると化けの皮が剥がれっちまうなんて言うぜぇ?」

土「そんなことはございません。
  杜氏の旦那はまだ、あたしの事を獣か何かと疑っておられる。
  神通力もお見せしたじゃありませんか。
  ちゃんとお酒造りを手伝わせてもらいます。
  土びなの神様からの仰せつかりですから、
  中途半端な仕事は致しません」

「そうかー」ってんで、話がまとまりまして、
翌日から、フグ乗りの大黒様、酒造りの手伝いを行います。

翌朝になりますてぇと、
麹の頃合を見まして、「盛」を行います。
麹を「箱」と呼ばれる木の弁当箱みたいなものに移して、重ねる。
力のいる、また根気のいる仕事になりますが、
人形がホッホホゥと、あっと言う間に終わらせてしまいました。

麹とは、お酒の元になるものですな。
お酒の原料は、水と麹と米です。
麹とはご案内の通り、
米を蒸しまして種麹、もやしと呼ばれているものを振り掛けます。
これが米を麹に変える菌なんですな。
48時間ほど麹室の中で繁殖していただく。
米のまわりにびっしりと蔓延っていただく。
米の中まで、麹菌が入り込んで、仕上がりとなります。

この麹と、水、蒸米を一緒に仕込みますてぇと、
菌の力によって米が分解される…と言う決め式となっておりますな。

米の中の糖を分解致しまして、これを酵母が食べます。
“アルコールを精製する”と言う自然界の仕組みがございます。
どれが欠けてもいけません。
米をそのまま酵母が食らう事は出来ません。
どうしても酵母がアルコールを出すために、
米を分解した糖が必要で、米を分解するには麹が必要なのですな。

順調に発酵が進みますてぇと、
もう元よりの水ではございません。酒となります。
その間も、様々、温度管理などの面倒を見てあげなくちゃいけません。
これらを…時たまお手伝いも入りますが、
杜氏はほとんど、おひとりで作業しておりました。
猫の手も借りたい。
故に、人形の手、それも神通力の力持ちとくれば、
心地好く頼る気になると言うものです。

土「さぁさぁ、何でも言ってください!」

杜「よーし、それじゃあ今度は今日の蒸米のために、
米を洗おう。
洗って、水に浸してな、そうして蒸すんだ」

土「へぃっ!なるほど!そりゃ出来ませんな」

杜「なんだい、人が頼む気になるとそれかい?
  どうして?」

土「どうしてもこうしても…、杜氏の旦那ァ。
  あたしは土びなですよ。れっきとした正真正銘の土びなァ。
  水には弱いってぇのが相場じゃねぇですか」

杜「なに、それこそパッパとやっちまえば良いじゃねぇか。
  神通力でさ。
  その小せぇ手で水になんて触らないだろう?」

土「神通力ィ、土びなの神様がお与えになりましたものですからね、
  苦手な水には効かないお定めなんでございます」

杜「そうか、なんでい」

思惑が外れた杜氏は、
蛇口から水を出し、洗米…米を洗う作業に入ります。
水は雄大に信州を囲む山々の雪解け水からなる、
水道口から名水が流れ出でます地区、
ごく清冽で、冷たい水に米を浸し、流れに乗せて、
洗って参ります。

杜「おーちべてぇ。何がツライって、これがツライんだ。
  見ろィ、人間ってぇのは、
  熱くても赤くなって、冷たくっても赤くなるんだぜぇ?
  手が動かなくなって来た…ッ」

土「ですから、微力ながらもお手伝いはしますよ」

杜「お、本当かい!
  なんだよー、やっぱり手伝ってくれるんじゃねぇか。
  出し惜しみしないでさ、さ!ちゃっちゃとやっておくんな」

土「へい、では…・・・がんばれー……ィ」

景気の良い「ホッホホゥ」の神通力…とは違いまして、
声が、水音に掻き消されそうな勢い。
そして、水に浸した杜氏の腕は、なお凍えるばかり。

土「…がんばれー……ィ」

杜「……それだけかい」

土「ええ」

杜「ちぇーッ、そうら、よっこいしょー」

土「がんばれーィ」

杜「よっこいしょー、チクショウめー、腕が凍るぜ~、よっこいしょー」


杜「よし、洗い上がったからな、浸す。
  浸漬をしよう。今日の外気温、水温、
  米の洗い具合、腹の空き具合も足して、
  どんだけ水ン中に浸しておくかを計算する……
  ……んー、ちょんちょんと」

杜「よし、32分ばかしか」

するってぇと、杜氏はストップウォッチを持ちまして、
米を水に浸す…時間を計り始めます。

土「杜氏の旦那ァ、
  そんなストップウォッチを持ってやる様なもんなんです?」

杜「おう、おまんまだったらな、
  別に良いんだよ、どうでも。
  だけどな、酒造りの『浸漬』は違う。
  全ての作業が失敗できねぇんだ。
  水を吸わせ過ぎては蒸しに影響が掛かる。
  蒸しをしくじりゃあ、麹も悪くなる、
  麹が悪くなれば酒にも、もちろん影響があらぁな。
  逆に、水が足りなけりゃ蒸しで、
  干からびちまう事だってあるしなぁ。
  この作業のしくじりが…、
  ほんのちょっとのほつれだって、
  酒になった時に、どう影響を及ぼすか検討もつかねぇんだ。
  最善をな、尽くしてやらない限りは、
  良くない方向に行く可能性ってぇのが鰻上りだよ。
  そうしたくなけりゃ、どうするって?
  いつも、どんな事にだって一生懸命に、
  めいっぱいに醸す。良い酒になるんだって信じる。
  一滴入魂、一滴にも俺の全部を注ぐんだ」

土「ほうほう…酒造りてぇのは、随分と心の要る仕事なんですなぁ」

杜「あぁ、頑張った分は酒が答えを出してくれる。
  旨い酒になってな、喜んで飲んでもらえる時ぁ、最高に良い気分だぜ。
  魂を込めた分、“嬉しい”ってなぁ魂が返って来るんだ」

杜「よし、時間だ!さぁ、これを蒸す!
  甑(こしき)に持って行くぜ!」

土「お、ザルから上げて、米を?持って行くんでスか?
  ええ、ええ、
  そう言うのでしたら、あたしにも出来ます!
  あちらの釜ですね、ええ、お任せを!」

杜「良いのかい、さっきまで水に浸ってたんだ、
  少しは湿りがあるぜ?」

土「いいんです!大丈夫です!
  杜氏の旦那ぁ、
  あたし、酒造りの真剣さに心打たれました。
  土びなですから、中ァ、空洞ですけど。
  手伝わせてくださいまし!」

杜「言うねぇ、じゃあ頼むぜ!」

浸しました米は、蒸します。
土びなに手伝ってもらい、
よいせっ!…と運びました米は、
「甑(こしき)」と呼ばれる大きな釜に、
丁寧に敷き並べられます。
支度が整った甑からは、
蒸気が今こそ出でんと待ち構えております。
米の上に、布をかぶせて、蒸気を当てる。
もうもうと湯気が立ち、布がぷかり…浮かび上がります。
蔵の内に差し込む朝の光は、
蔵中に垂れ込める蒸気に反射して、
光の筋は目に留まる事となり、
幻想的で、また蒸される米の甘い香が漂い、
酒蔵の朝の風景、風物詩のお決まりと言ったところ。

土「よーよぅ、すごい蒸気ですねぇ。こりゃあ近づけねぇや」

杜「俺だって近づけねぇよ。
  焼けつっちまうぜ。
  ボイラーでなぁ…、
  昔は釜の下ィ、火ィくべて水、張ってやっていたそうだが、
  いかんせんな、
  ボイラーの熱量は強くて安定しているんでな。
  繊細に蒸米を作ることが出来るってもんよ」

土「へえ。
  あたし達は今も昔も、
  絵師さんにしっかと顔を描いてもらって、
  服を絵付けもらいますがねー。
  ボイラーなんて、近代文明になんて頼らない、
  伝統工芸ってぇ性分でございますからなぁ」

杜「はっはっは。伝統ってぇなら、
  酒造りも古くから続くし負けちゃいねぇが、
  良い酒になるためなら、何でもしなくちゃいけねぇからな。
  蒸しの状態てぇのは、
  良い麹を作るにはとっても大切なんだ。
  外硬内軟って言ってな。
  外側が乾いていて硬く、
  サバケが良い…
  けれど、中は軟らかくて、
  よーく種麹が中に入って行き易い、
  菌糸を這わせやすい状態にしてやって、
  麹室に引き込んでやる。
  その為には、ボイラーは必要だなぁ。
  酒造りてぇのは伝統の技には違いねぇんだが、
  伝統ばっかりじゃなくて、
  最新鋭の技術、科学のチカラってぇのも取り込んでやって、
  とにかく、
  「ウマイ!」って言ってもらえる酒を醸してぇんだよ」

土「そうスかぁ。土びなとは、随分と趣が違うんですねぇ」

杜「一滴入魂の気持ちは一緒じゃねぇか。
  もっとも一筆入魂なんだろうけどもよ。
  それが伝統の技、心意気ってぇもんよ」

土「流石、杜氏の旦那。良い事を仰いますなぁ」

杜「よせやい、何も出ねぇぜ?へへっ。
  よぉし!次だ!蒸しの間に、次に行こうか!」

土「えっ!次ですかィ!?」

杜「なんでぇ、疲れたかい。人形だけに小せぇナリだしな。休むか」

土「おっ、おう、いえいえ、こりゃあ負けてられませんぜ。
  アタシ、ご奉公の身の上でございます。
  ご主人より先に腰を下ろせるものですか!」

杜「腰を下ろす…って、お前さんは宙に浮いている訳だが…」

土「宙もニャーもありませんや!
  しっかとお手伝いさせて頂きます!
  それにしても…杜氏の旦那は休まないですかィ?
  体ぁ動かし過ぎても良くないと思うんですが…」

杜「なぁに、酒造りは今しか出来ねぇからな。
  今、良い酒のために、やるべきなんだ。
  一冬一冬に精魂込めて醸す。醸したいんだ。
  そう思えば、自然に体が動くってもんよ」


杜氏と土びなは、
続いて、酒になる前の状態…
酒が発酵して行く場所、
モロミが入ったホーロウタンク、立ち並ぶ部屋にやって参りました。
電灯は裸電球がポツリポツリと照らし、
ひんやりとした空間に、身の丈よりずっと大きい酒のタンクが、
部屋、所狭しと敷き詰めれられております。
光はタンクの影に遮られ、まるで樹海。
たくさんの酒の命、生命が育まれる場所でございます。

土「わぁ――…杜氏の旦那ァ、なんですか、これー。
  随分と大きいですねー」

杜「2000リッターのタンクだ。
  普通と言っちゃあ普通の大きさだが、
  そうだなぁ、まぁ、おめぇさんの体から言えば、
  随分と大きいなぁ」

杜「もう、何本かモロミが立っているからな。
  これに仕上がった麹と、蒸した米、水を入れる」

土「なんすか、杜氏の旦那。タンクの中…
  この粥みてぇなの」

杜「それがモロミって言うんだ。
  日本酒そのものだよ。それを漉してやると、
  酒と、酒粕に分かれる。
  で、樽に詰めてやれば、
  酒として世に出て行くってぇ寸法だ」

土「へぇ、おっ、モロミの野郎、コポコポ息してますよ」

杜「モロミの野郎ってなぁ、妙な言い草だなぁ。
  まぁ、いいやな。
  さぁ、こっちのタンクに水や蒸米を入れるぜ
  「留(とめ)」の日なんだ」

土「トメ…?
  あれだ、どっかの横丁のばあさんを連れてきて、
  蒸米と水と一緒に仕込んで、人身御供に…?」

杜「おいおい、神様の使いが、
  えらく物騒な事を言うじゃねぇか!
  違うわい」

杜「酒の仕込みはな、
  回数を分けて、麹、米、水を仕込んで行くんだ。
  ちょっとずつな。
  一時にやると、
  麹の菌も酵母もビックリしちまって上手に生きられねぇ。
  酒にならねぇからな。
  「添」「仲」「留」の三段階だ。
  「添」のあとには1日、踊りがあって、
  菌を馴染ませて、増殖させて、
  そうしてモロミが安定したところで、
  増やして行く…発酵させて行くんだ」

杜「さぁ、持ち上げて、そうだ…
  入れて、そうそう、よーしよし」

土びなの力を借り、次々に酒の素が仕込まれて行きます。

土「杜氏の旦那、全て入れ終わりましたから、
  これで、このタンクの中は酒になるんですか」

杜「そうだ。ここから20日くらい掛けて、ゆっくり育てて行く」

土「はつか!もう、これで酒になって飲めるンじゃないですか!」

杜「なんでい、さっきから聞いてりゃ、
  手伝いに来たって割には、何にも知らねぇな。
  お客を蔵見学で案内しているみてぇな心持ちだぁ。
  下手な客の方がよっぽど知っているぜぇ?」

土「いやいや、杜氏の旦那ァ、そりゃあ仕方がありませんや。
  あたしは土人形のプロですからね。
  酒造りはサッパリですよ」

杜「土人形のプロって…土人形そのものじゃねぇか」

土「生を受けてこの方、一分の隙間なく土人形でさぁ」

杜「…まだモロミは酒の赤ちゃんとでも言うか、
  ようやく仕込み、準備が揃ったところだ。
  ここから酒になって行く……
  温度をあまり上げずに、
  徐々に元気に発酵してくれば、
  発酵の熱によって温度が上がる。
  上げ過ぎると、
  酒が酒になる前に米が融け切っちまうし、
  下げ過ぎてもいけねぇ。
  今度は、発酵停滞に繋がる。
  低めを保ってやりながら、熱くなり過ぎないように、
  寒くなり過ぎないように、
  いい按配でモロミを見て行くんだ」

土「えー、そりゃあ、なんとまぁ、お難しい…」

杜「さぁ、どんどんやるぞ!
  土びなだか、なんだか知らねぇけど、
  この節、猫の手を引っ張ってでも借りてぇ所なんだ。
  よろしく頼むぜ!」

土「へい!杜氏の旦那ぁ!」

そんな訳で二人三脚…
…にしては、足首も結べない土びなではございますが、
とにもかくにも、酒造りが始まりました。
相変わらず、土びなは水に触れる仕事は出来ませんが、
麹の盛り、切り返し、積み替え、
モロミの温度管理…
酒造り最盛期、冬の酒蔵に、仕事と言うものは、
いくらでもございます。
杜氏も寝食を忘れて、熱心に酒を醸して参ります。


夜はシンと静かな雪の降る晩。
タンクが並ぶ部屋は、
少ぉしだけ騒がしいものでございます。
サァサァ…サァサァ―――
発酵する音、
霧雨、風に混ざり、
雨戸を撫でる音の如く、仕込み部屋を包みます。

麹、酵母が双方に働きまして、
モロミの面を一層、賑やかなものにしております。
タンクを覗き込みますと、
まるで天狗の団扇に仰がれ、風が舞い上がる様。
酒の息吹。
ごく芳しく、爽やかな良い香、
酒の呼吸が頬に添い、目の前にはモロミの一面の白い景色。
深雪が沸き立つ様な景色は、
育まれるモロミの生命を強く感じさせるものです。
杜氏はじっとモロミを眺めておりました。
しばらく眺めていると、次のタンクへ。
そうして再び眺め、1度だけ頷きますと、
また次のタンクへ。

土「杜氏の旦那、寝ないんですか。
  明日もお早いはず…。
  少しばかりでも横になり、体を休めて起きませんと…」

杜「へへ、お前ぇに言われるとはな。
  本当に助かってるぜ。
  なぁ、見てくれ。
  モロミが生きているんだ。
  良い香だろう」

土「アタシは土びなですから、匂いてぇのは分かりませんや。
  でも、そう、動いていますな。
  かき混ぜてもいねぇのに、
  米の粒が見えまさぁ。
  あれ、アタシが入れた米粒ですよね」

杜「そうだ。
  その米が麹によって融ける。
  融かした所に酵母が食いつく。
  酵母が食うと、アルコールになる。
  二酸化炭素を吐き出して呼吸をしながら、
  アルコールを生成してな、
  そして香気成分を置いて行く。
  この繰り返し、極まったものが酒なんだ。
  じっくりじっくり発酵する」

土「へい」

杜「いいか。
  目に見えない菌、酵母、
  これが酒を造ってくれる。
  俺たち、人間てぇのは、
  菌が動き易い環境を作ってやることしかできねぇんだ。
  モロミが寒いと言えば、暖めてやる。
  逆に暑いと言えば、冷ましてやる。
  育つことに最も良い環境を作ってやるんだ。
  親…と言えば親か。
  育つのは子が、モロミが一生懸命になって、
  生きてくれなくちゃダメなんだ。
  杜氏の…俺の仕事なんざ、
  ただ、ただ、ヨチヨチ歩きだったモロミが、
  立派に日本酒となって一人前に成るまで、
  一生懸命に、環境を造ってやるだけなんだ。
  たったそれだけしか出来ない。
  こうして声を聞いてやる、そして動く。
  これを繰り返しているだけ。
  一生懸命、良い酒になってくれ…と、祈るだけ…」

じっとモロミを見つめる杜氏。
それは慈愛深く、また時に厳しいもの。
そんな杜氏を、土びなも何を言うとでもなく、
ただ、じっと見つめていました。

静かな…
モロミが生きる雨の様な音、ササーササーと言う音だけが響く、
雪降りしきる晩の出来事…。


杜「さぁ、今日は1本目を搾るぞ」

土「搾る?搾るてぇのはなんです?
  初めて、お出になるお仕事ですな」

杜「そうだ、育ったモロミを袋に取って、
  この槽(ふね)に入れて積んで行くんだ。
  これは濡れるからな、
  ここは俺に任せてもらって、
  お前ぇさんには、他の仕事をお願いしようか」

土「杜氏の旦那、もし、良ければ見せてください。
  旦那が言っていた、
  モロミを酒と酒粕に分ける…
  酒が酒になる瞬間ってぇ、ことですよね。
  アタシ、旦那がこのひと月、
  魂込めて醸したもの、その生まれる場を見てみたいです」

杜「そうか。あぁ、良いだろう」

杜「この酒袋にモロミを取って、んしょっと、置く。
  ふー。
  袋に取って、んしょっと、置く。
  ふー。
  これを何度も何度も繰り返すんだ」

杜「袋に取って、んしょっと、置く。
  袋に取って…、よし、次…」

槽(ふね)と言うものは、
大きな弁当箱、悪く言えば棺桶の様に、
縦長で深い箱になった枠をご想像頂ければと存じます。
とにかく深く、
両の手を底に持って行くには、
身を乗り出さなければなりません。

杜氏は何度も何度も作業を繰り返します。
モロミを袋に取る際には、
ズシリと重いモロミが袋に流れ込み、
掴んだ手も千切れそうな程に圧が掛かります。
ここで流れに負けてしまって手を離すと、
モロミが床にぶちまかれてしまいます。
無事にモロミを袋に詰めたとしても、
それを胸高まで持ち上げ、足元あたり、
袋をゆっくり槽(ふね)に並べて行く。

歩く度にバシャッバシャッと水辺を、
重く動くすり足の音、
重みで震える手は、繰り返せば繰り返すほど、
疲労の影を見て取れるようになります。
呼吸が荒くなり、真冬とは言え、
杜氏の額、こめかみ、首筋には汗が見え、
浅黒い肌からは湯気が立ち上ります。

土「杜氏の旦那ァ、あたしも手伝います!」

土びなは、居ても立ってもいられません。

杜「おいおい、濡れちまうじゃねぇか」

土「ええ、ですから!
  ですから、旦那を動かす事にします。
  旦那の量の腕に神通力を掛けますんで、さぁ!
  ホー、ホウホウ!どうぞ!持ってみておくんなさい」

杜「お、おお、モロミが重くない」

土「えぇ、任せてください。
  こうしてひと月、旦那とやって参りました。
  酒造りに勤しんで参りました。
  だいたいね、コツなんてぇものは掴んじまいやした。
  旦那の呼吸が分かりやす。
  モロミが落ちる瞬間に力を入れて、
  グッ、ググッ――…と重みを受ける。
  一旦呼吸を置いて…整えてから、
  せいの、で、槽に置いて行く。
  何でも分かります。
  一生懸命な杜氏の旦那の仕事を、
  アタシも、おそばで一生懸命にお手伝いして来ました!
  杜氏の旦那が欲しいものが、もう何でも分かります。
  えぇ、旦那が今、こうして酒を搾る…
  酒が仕上がる嬉しさもまた、伝わって来るんです。
  ねぇ、
  お酒の事なんて何にも分からない土びなのアタシも、
  杜氏の旦那と一緒に酒を造る事が出来て、嬉しいんです」

杜「そうか、そう言ってくれると嬉しいな。
  そう言やあ…、お前ぇさんも随分と手が汚れちまったなぁ…」

いつしか土びなの手は、汚れていました。
神通力で、直接手を使ってはいませんが、
使う事で染みる様に、
水や蒸気に少し触るだけでも、
何度も何度も触れる内に、染みが広がって行く様でした。

土「ありゃ、お気づきでしたか。
  神通力とは言え、土びなの神様ってぇことで、
  水は染みて来る様でして」

杜「いいのかい、人形が手を汚しちまって」

土「なぁに、杜氏の旦那が頑張っているのを見たら、
  自然に体が動いたんです。
  人形としたら、汚れちゃあダメかも知れませんがね、
  今は、旦那をお助けする事が、アタシの役目です。
  これぐらいィ、どうってことないです」

杜「嬉しいじゃねぇか。
  その心意気、存分に買わせてもらうぜ。
  お前ぇさんは、立派なうちの蔵人だ」

杜氏と土びな、
ふたりで協力し合い、次、またひとつ次へ…
酒袋を積み上げて参ります。
槽(ふね)に、めいっぱい袋が積み上がりますと、
上から蓋をし、大きなネジが付いた板で押し付ける…
ネジを回す事で、グッと上から圧が掛かります。
急に搾っては酒に粗が出る事もありますから、
ゆっくりゆっくりと、時間を掛けて、
酒を搾り出して行きます。

杜「見ろィ。ちょろちょろと出て来ただろう。
  あれが酒なんだ。
  まだ出始め、あらばしりだ。
  少しずつ圧を掛けて行く。
  少しずつ少しずつだ」

土「お、お、お、出て来ますね。
  杜氏の旦那ァ!これが酒なんですね!」

杜「そうだ、長い時間かかってここまで来るんだ。
  お前ぇさんも、よぉく知っているだろう?」

土「ええ、存じております。
  米を洗い、蒸す所から、
  モロミが育って行く全て、拝見して参りました」

杜「さぁ、どうする。
  酒がどんどんと搾れて行く。
  飲むかい、いや、お前ぇさんは飲めるのかい」

土「へぇ、ありがとう存じます。
  アタシは土びなですから、水に触れられませんや。
  飲むなんて、もってのほかです。
  こうして、派遣に預かる前、
  親父に言われました。
  土びなの神様の神通力のおかげでご奉公できる。
  けれど、水を浴びたり、
  よもや飲んだりしてしまっては、
  神通力が解けて、
  ただの動かねぇ人形に戻っちまうんだ…って。
  死ぬ訳じゃあねぇんです。
  人形が人形に戻るだけなんです」

杜「そうか」

土「でもね、アタシね、
  そのお酒は飲んでみたいです。
  杜氏の旦那が、一生懸命育てた酒です。
  マズイはずがねぇ。
  こんなに魂がこもった酒はねぇと思うんです。
  知ってんですよ。
  その酒は、飲むために生まれてきた。
  そのために、杜氏の旦那は一生懸命に働いた…。
  飲まれるためにあるんだってんなら、
  全うしなくちゃいけませんや」

土「そしてアタシも、
  及ばずながら旦那のお手伝いをさせてもらいました。
  そうですね、結構、難儀な手伝いでした。
  手も汚れっちまいますしね、
  何より重労働だ。
  人形のアタシ向きじゃあ、ありませんや。
  それを頂いて、
  故郷に帰ろうと…
  …お暇を頂こうと思います。
  元の人形に戻るだけですから、
  ただ、元の人形に戻るだけですから、
  それで良いんじゃねぇかって思うんです。
  杜氏の旦那、
  是非…、
  是非、その酒を飲ませて頂けないでしょうか」

杜「もちろんだ。お前ぇさんが呑みたいと言うのならば、
  この酒は喜んでお前ぇさんの口に入って行くだろう。
  さぁ、呑んでみてくれ。
  実に良い香、良い酒だ」

土「へぇ、いただきます。あぁ、本当に良い香ですね」

杜「…土びなは香が分からねぇんじゃねぇのかい」

土「ええ、分かりません。
  分かりませんが、旦那のお顔で分かります。
  良い香だってぇ、お顔をされております。
  旦那の事は、何でも分かります」

ゴクッ…。

杜「あぁ、うまい」

土「うまい、うまいですね。
  本当にうまい。
  杜氏の旦那の顔が浮かびますよ。
  目の前にいる、旦那の、
  色んな顔が…
  汗して、息ぃ切らして、
  一生懸命、一生懸命、醸してらっしゃる」

土「へへっ、旦那ぁ、アタシ、
  口のまわりにお酒を粗相してはいませんかね」

杜「いや、大丈夫だ。綺麗なもんだ」

土「そうですか、
  アタシが、ただの土びなに戻った時、
  ね、人形が顔を汚していちゃあ、締りがありませんや。
  売り物にもならねぇかも知れません」

杜「なに言ってやがる。
  お前ぇには、ずぅっとこの蔵を見守っていてもらいてぇ。
  どんなに汚れていても、俺は買うよ。
  俺の酒造りを、ずっとずっと見守っていてもらいたい」

土「そうですか、
  ずっと一緒にいられるんですか。
  ありがてぇ、ありがてぇなぁ…」

土「うまい。うまいです。
  芯からあたたまる様だ…」

その時、タッと人形の目からひとすじ、光るものが落ちました。

杜「お、おい、お前ぇ目から涙…か」

土「あぁ、いけねぇ。
  泣いちゃあいけねぇや。
  でもね、こんな嬉しいこたぁない。
  いけねぇなぁ、涙のあとも、染みになっちまうってぇのに」

杜「本当にありがとうよ。
  お前ぇに手伝ってもらって、助かった。
  今年は良い酒造りが出来たぜ」

土「あたしも楽しい時間でした。
  今後とも、えぇ、
  良い酒を醸し続けて行ってくださいましな」

杜「あたりめぇだ!」

ふたりに呼吸と言うものが存在し、
合う事で、酒造りを続けて参りました。
言葉に表さなくても、阿吽の呼吸、心の通いがございます。
共に、これが最後と分かっていたのでしょう。

すっと魂が抜けたかの様に、
コト…と、乾いた音を静かな蔵の中に響かせて、
土人形が床に落ちると、
もう、それっきり動かなくなりました。

杜氏はその年、生まれ来る酒に、
「中野土びな」と名付け、
酒の顔になりますラベルには、
土人形の…フグ乗りの大黒様の絵柄を書き添えました。

その後も、杜氏は熱心に酒を醸しております。
もし、中野でお顔にちょっとした染みのある土びながございましたら、
それは清酒「中野土びな」を醸した、
不思議な中野土人形協会所属の土びななのかも知れません。

息吹立つ 酒の心に 土人形の 命灯りし 中野の夜

「中野の土びな」と言う一席でございました。

ありがとうございました。

ありがとうございました。

あとがき……………………………酒落語・その五

えー、まずは御礼申し上げます。
酒落語の第5弾、
お読み頂きまして誠にありがとう存じます。
初めて人情噺を書かせて頂きました。
これまでの食、信州、日本酒の組み合わせではなく、
酒造りそのものをお題目と致しました。

えー、
「井賀屋酒造場」は中野市にございまして、
「中野土びな」と言う純米大吟醸がお品としてございます。
売られております。
もちろん、今回、私が申し上げました、
杜氏と土人形とのお話は、フィクションでございます!
一応、酒銘を使う旨、
「井賀屋酒造場」さんにお話を通してはおりますが、
「中野土びな・純米大吟醸」の由来と致しましては、
ええ、
私自身の二次創作でございますので、
何卒、ご理解の程をお願い申し上げておきます。

ただ、フィクションでない事も多くございます。
「井賀屋酒造場」、一滴入魂の酒を醸す酒蔵。
若き杜氏「小古井宗一」氏が醸す日本酒に、
私、心底、惚れております。
主なラインナップは「岩清水」と名付けられており、
個性のある素晴らしい日本酒です。
チャレンジ精神に溢れ、
酒質の向上に日々研鑽、打ち込み打ち込み、
年々、その旨さたるや鰻上りであると、
実際に口にし、
五臓六腑に染み渡らせて感じている次第であります。
先日、10月13日も長野酒メッセin長野に馳せ参じまして、
岩清水・純米五割麹・無濾過瓶火入れ、
この57℃にした燗酒が、非常に美味しいものでした。
「あぁ、この酒が大好きだ!」としみじみ味わいました。
小古井杜氏の奮闘、今後とも応援して行きたいと思います。
また今年も、来年も、更にその先、
ずず、ずいっ…と、美味しく頂きたい、そう思っております。

こうして“あとがき”として、
書き出したものを振り返りますと、
もしかすると自分自身が、
「岩清水」を題材として描かせて頂く事で、
その素晴らしい日本酒に携わりたい…と、
内心、頭のどこかで考えてこそ…なのかも知れません。

井賀屋酒造場もまた然りですが、
何蔵も蔵見学をさせて頂いた中で、
やはり、モロミの呼吸が支配する空間と言うものは、
実に生命の息吹を感じる事が出来る場所だと感じております。

身を清めるが如く、自然と背筋が伸びる心持ち。
静かな気配が、シンシンと降り頻る雨の様な音は、
仕込み部屋に反響し、心身に染み渡ります。
息吹、その神々しさを肌で感じ、
酒を醸す事は神事に似たり…そう思わせます。
何度も、そう思っております。
もし、今回の酒落語をご高覧頂くことで、
酒蔵の空気が、チラッとでも鼻先を霞めましたら、
たいへんに幸いでございます。

それでは、また第6弾でお会い出来ればと存じます。
ありがとうございました。
ありがとうございました。

酒 宗夜
酒落語・第5席「中野土びな」
2011年10月19日。

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2011年7月26日 (火)

酒落語「 そば前 」

Cimgrakugo_2

お暑い中に、お運び頂きまして、誠に御礼申し上げます。
一席のお付き合いをお願い致します。

えー、
「信州」と言えば「蕎麦」だと申しますほど、
信州と言う土地には蕎麦が似合います。
時期になりますてぇと、
蕎麦の白い花が一面にタァーッと並んで、
たいへんに美しいもの…なんですな。
黒い実が落ちまして、これを乾燥させる、
すりつぶしてお粉にして、打つ。
そうして蕎麦になって仕上がりますのが秋の晩から冬いっぱい。
夏になれば、冬越しの春越しの…てんで、
随分と味が落ちる。
“夏の蕎麦は犬でも食わぬ”…なんて、
江戸の時分から申しますが、
現代、昨今においては、そうでもないんだそうです。
科学の力…てぇのは素晴らしいですネ。
噺家にゃ、いちばん縁遠いお力なんですが。
“冷蔵技術”なるものの発達で、
蕎麦の実を取り置けるからこそ、
案外、盛りの時期と遜色が無いんだそうで。

蕎麦の世界には、
「そば前」と言う…なんと申しますか、
“たしなみ”とでも、申し上げたらよろしいでしょうか、
乙な楽しみ方がある様でございます。

蕎麦が茹で上がるまで、
酒、肴を楽しもうてなぁ趣向でございます。
せっかちだった江戸っ子の気性なんでしょうか、
直ぐに茹で上がる蕎麦であっても、
待ち時間を、どうして、いかに、有意義に過ごそうか…
…まるで、何時でもケータイを離さない若者の様な心境だったのでしょうか。
まぁ、もっとも「朝酒は女房を質に置いても飲む」のも、
また江戸っ子の気性でございます。
「そば前」なんて言うたしなみは、
実の所は、至って御酒を頂戴する口実にしていた…
その様な心持ちも致すところではございますが、
どちらにせよ、定かではありません。

えー、舞台は信州松本でございます。
「からっ風」と申しますと雪の季節を思い浮かべますが、
夏の信州の風と言うのも、
どうでしょう、「からっ風」なのではないか…と思う日がございます。
東京や名古屋、海べりの蒸し暑さに比べて、
標高700メートルを越える信州の風は、
日差しこそ強いものの、爽やかである…と、よくぞ旅人は申します。

信州に住んでおりますと体が慣れちまって、
年がら年中、ちぃとも感じねぇもんなんですが。

天下の往来を上機嫌で歩いているのは4人の男。
時折、「ガハハッ」と笑って、実に威勢がよろしい。
何を話しているかってぇと、
えぇ実のない、他愛も無い話でして、
仕事の話ってぇよりも、
今日、昨日何があった、どんな馬鹿をやっただか、
気楽な休日時分の暢気話。
昔馴染みの幼馴染、大人ンなってもしじゅうツルんで居ります、
信さんに岩さん、亀田屋さん、善兵衛さんが、
肩ぁ並べて歩いております。

朝から町内の草野球があったってんで、
早起きをし、汗を流し、
申し合わせて、子供らを家に追いやった上で、
さぁさぁ、一杯やろうじゃねぇか…って、
悪い親父たちがあったもんで。

同じ町内にございます、
これまた馴染みのお蕎麦屋さん「そば笹」、
ここの主も4人とは昔馴染みでございます。

事に寄るってぇと…いやいや、よしんば事がないなら、
えー、
心に、こう…グッとつかえて、
どうにも苦しい事があるので、
御酒の力を借りるけれども、
昔馴染みの兄弟分に、男同士の腹を割った話をしたい…
「そんな風にあいつに言われっちゃ、
 いかない訳には行くぅぅぅぅめぇぇぇぇ…」
…だなんて時に芝居がかったりしてね。

で、信さんが岩さんをダシにして、
岩さんが善兵衛さんをダシにして、
善兵衛さんが亀さん、亀さんが信さん…てぇあんばいで、
ひと回ししちまって、
亀さんトコのおかみさんが、信さんトコに礼を言いに行ったら、
「あれ、うちの旦那、今ぁ岩さんトコ行くって、出て行っちまったよ」
「あれ、うちの旦那も」「あれ、私のところも」
ぐるっと回って、
お定まりの「そば笹」で4人、やっている所に、
おかみさん連中がどやどやっと集まって…
その後のご騒乱は、申し上げずとも、ご想像の通りでして。

信さん、岩さん、亀田屋さん、善兵衛さん。
理由なんざ、どうでも良いんです。
気の置けない仲間内で、
美味しく楽しく御酒が飲める…
かえって、
これに理由をお求めになることが、
野暮って…ものかも、知れませんね。
昼、夜、のべつ、
集まるンなら「そば笹」とお定まり。

昔から…「女三人寄れば姦しい」と申しますが、
「三人寄れば文殊の知恵」と言う諺もございます。
ともすれば…これは、
女衆が集まって、
ピーチクパーチク、
パァパァ井戸端でやっているだけでも、
役に立つ知識が出るんだ…と言う事になりますな。
んー…なんだか、妙な心持ちにさせられますが。
するってぇと、まぁ、
あんまり悪いもんでもないのかなぁ…なんて思ったりも致します。

けれども、これを家内に話しましたところ、

「やだ、お前さん。そんなこたぁないんですよ」

…と言う。

「はぁ、なんでだい?」と聞きますてぇと、

「女はね、1人でも姦しいから、きっと1人でも知恵を働かせられますよ」
…なんて申しまして。

大の男4名ではいかがなものか…と申しますと、
ご案内の通り、
おしめが取れる頃からの付き合い、
言わば兄弟の様な幼馴染ともなれば、
気心も知れまして、たいへんに賑やかなものですな。

ちょっとばかし行き過ぎれば騒々しい、
しまいに喧嘩なんぞをおっぱじめれば、手も付けられない。
ただそれは、江戸の世も、今の世の中も、
また男も女も、あんまり変わらないものなのかなぁ…と、
思ったりも致す所でございます。



信「おう!邪魔するよ!」

善「こんちは!笹坊いるかい!」

亀「こんちは!」

岩「こんちは~!」

4人は、
ドカドカっと入って、
ダダダッと案内される前から椅子を手繰って、
腰掛けちまうなんざ、
よっぽど、テメェの家より通りが良いかも知れません。
通せんぼするおかみさんの存在も大きいんでしょうが。
昼から、膳の向こうを気にせず御酒が飲めるてんで、
ハナから随分と賑やかしい。

店ん中の方で、
ドヤドヤっとお客さんが入る音が聞こえ、
「よぉし、今日も旨い蕎麦をいっぺえ食わせてやるか!」
…なんて、向こう鉢巻(むこっぱちまき)締めなおした、
「そば笹」も、負けずと威勢良く出て参ります。

笹「へぇ、いらっしゃい!いらっしゃいまし!」

信「おう、笹の字。酒を出してくんな」

笹「……………………」

笹「……チッ」

善「聞いたかい、おいおいおい、舌打ちなんざしやがって!」

岩「舌打ち所じゃあないよ、眉間にね、あっと言う間に皺が入ったよ」

亀「どうしたんだい、随分な顔じゃあないか」

笹「どうしたもこうしたもないよ、えぇ?
  こう暑くっちゃな、なかなかお客様がお入りにならねぇ。
  ようやっと、団体さんがいらっしゃった!…
  …って思った所に、これだ。
  おめぇらだよ。いい加減、その面も見飽きるてんだ」

亀「それはねぇ、物心付いた時から馴染んでいるからねぇ」

岩「へへ、そうかい?ガキの頃に比べりゃあ、
  みんな浅黒くなってヒゲが、
  こう、ニョキニョキッ~っと、出てだねぇ…」

信「岩ちゃん、そんなのは、みんな一緒さぁ。
  笹坊、毎度の事とは言え、文句の前に三つ指でも付いて、
  “ようこそ、いらっしゃいました”とか言えねぇもんかね。
  同じ中でも、あっちの“中”は、
  茶屋に上がる前から、そうした礼儀一般、教わるもんだぜぇ?」

笹「おうおう、言ってくれるじゃねぇか。
  そんなに三つ指がお望みだったら、
  土間ぁ手ぇ付いて、やってやらぁな。
  その手で打った蕎麦、食わせるぞぉ!コンチクショウ!」

岩「なぁなぁ、善さん…するてぇと、どうなんの?」

笹「おいおい、岩ちゃん。啖呵切ったんだ。受けてくんねぇと」

善「そうだぜ、あれだな…
  よっ、
  そんな砂だか石だか付いた手で打った蕎麦なんか食えるかーッ…とか、
  どうだい?」

岩「へへ、そうなんだ。よぉし……」

岩「そ、そんな手ぇで、打った蕎麦なんか食えるか!…
  …蕎麦んなって出て来たら食べちゃうかもなぁ。
  そば笹の蕎麦ぁ、うめぇもんなぁ」

笹「なんだい、岩ちゃん。嬉しい事を言ってくれるじゃあねぇか」

亀「ははっ、角が引っ込んじまったねぇ」

信「まぁ、いいやな。飲もうじゃねぇか。
  気が抜けちまったよ。笹坊、酒ぇ見繕ってくんねぇか」

笹「あいよ、任せときな」

信「今日はなにがあるんだい?」

笹「もちろん、酒は売るほどあるぜぇ?
  良い酒を誂えてあらぁな。
  “冷やは身体に毒”なんて言うけどな、
  今日はこれを冷やで、飲んでおくんな」

Cimg5000

ドン…とそば笹が取り出しました一升瓶は、
よく冷えており、見目鮮やかな夏の空の青のラベル。
トットットット…と、そば笹が4人に注いで回ります。
待ちわびた1杯に4人は飛びつきますてぇと…。

岩「ふわぁ、良い香だね!ソーダ水みたいだ!」

善「おいおい、岩ちゃん。酒にソーダ水はねぇだろう」

亀「そうでもないよ。甘くってね、爽やかな香だよ。
  ソーダ水って言うのも、間違っていなさそうだ」

笹「夏には夏の酒がある…てなぁ。
  サッパリ爽やか、夏の食にも合う…なんてぇ触れ込みだ。
  笹の誉、特別純米中汲み生、
  島内の浜農場で育てた酒米で醸した酒さぁ!」

信「笹の誉ってぇと島内だよな。なんだい、米も島内産かい?」

笹「そうさ、全ッ部、松本生まれの日本酒だぜ!
  ささ、いっぺぇやってくんな!お通し、持って来るからよ」

信「すまねぇな!」

善「頼むよーっ」

…てんで、そば笹が奥に引っ込みますと、
「乾杯!お疲れさまぁ!」
日本全国、どこでも拝見できる、
たいへんに、お喜ばしい光景でございます。

亀「うーん、飲んでみても香が良いのは変わらないねぇ」

善「甘くって、シャッとして、良いねぇ」

信「俺は、このスルスルッと喉を通るのが気に入った。
  飲み込む、するてぇと香が腹から鼻まで戻って来るみてぇだ」

わいわいと飲む。
ご察しの通り、この4人。
日本酒は大の好物でございまして、
折々、「そば笹」が誂える日本酒の豊富さ、
飲み比べられる、
食べながら、色んな味わいに出会える事も、
また実にお目当てにして、通っている様でございます。

亀「この酒、美味しいなぁ。うちのヤツにも飲ませてやりてぇなぁ。
  こう言う香のあんの、好きじゃねぇかと思うんだよなぁ」

善「相っ変わらずだねぇ。
  …亀さん、他人のおかみさん捕まえて言うこっちゃねぇけど、
  あんなおっかねぇの、どこが良いんだい」

亀「どこって、そこが良いんだよ。気の強いトコっ」

岩「ねぇねぇ、信さん。亀さんね、昼間っからオノロケだよ~」

信「赤くなるのは、昼酒だけにしてくんな…でも、まぁ、あれだな。
  ノロケってるうちぁ、酒が不味くなる話でもねぇやな」

実に他愛もない、
肩の力の抜けた話でございます。

笹「よーし!お待ちどう!まずは、お通し!
  イキの良いのが入ったぜ!」

岩「えー!なんだい、イキって!?刺身ー?」

笹「ほらよ、朝採れたばっかのミョウガ」

岩「なんだよー、刺身じゃねぇのぉ?」

笹「生のまま薄く切って出す…ってんなら、刺身と一緒だな」

信「…そりゃあ違ぇねぇ」

笹「へっ、胡瓜を切って塩でひと揉み、ワカメで和えたものに、ミョウガだ。
  夏はこれで始まんなくっちゃなぁ!
  胡瓜も今朝採りだぃ。坂北の山さんが持って来てくれたんだ」

胡瓜の緑は青々として盛夏を感じさせます。
ゴツゴツと盛り上がった皮目がまた山を思わせます。
ワカメの黒くぬめって光る様は夜の海とでも申しましょうか。
胡瓜の山間に渓谷として存在する谷間の黒でも良いのかも知れません。
薄桃から紫、透き通る白に色が移るミョウガは、
その山や渓谷に掛かる虹の様に、小さな曲線を描いて、
小鉢の中に寝そべっております。
めいめいは左手に御酒を持ち、右手には箸。肴に手を伸ばします。

亀「おっ、胡瓜がゴリゴリっとして…本当だ。イキが良いね」

善「んん!塩みが旨いよ~!こう胡瓜が瑞々しいのに、
  ちっとも味足らなくねぇんだ。
  胡瓜ゴリゴリ、茗荷シャクシャク、良い心持ちだぁ」

笹「だろう?ささ、そうして笹の誉を飲んでおくんな」

信「推すねぇ。…どれどれ、合わせて食べてみるか」

岩「わわぁ!ミョウガの香と笹の誉の香が両方するよ!」

信「クンッと突く様なミョウガの香に、華やかな笹の誉の香。
  これが合うんだなぁ」

善「信さん、そりゃそうだけど、胡瓜とやってみねぇな!
  瑞々しい胡瓜だけどよ、
  サッパリしてねぇ訳じゃねぇんだよ?
  ワカメの塩気もあってウメェけどよ、
  くどい訳じゃねぇんだよ?
  でもよ、ここで笹の誉で締めると、
  シュッとさらって行く感じがしてね~!
  後味がいいやな!こう、浸っちまうねぇ」

岩「じゃ、その脇から胡瓜1個もらうよ~」

善「おいこらてめぇ、岩ちゃん!ちょっ、あっ、食っちまった」

亀「おいおい、胡瓜1個で喧嘩しちゃダメだよ」

善「俺ぁ胡瓜と美味しくよろしくやってたんだぁ……亀さん、くれる?」

亀「いやだよ、私も私でよろしくするんだから」

善「ちぇっーっ」

笹「ところで、今日はどうだったんだい?」

信「どうだった…って何がだい?」

笹「もったいぶるのはよしなよ~。お通し直ぐに出したじゃねぇかぁ、コノヤロ」

亀「…妙なものと比べるねぇ。聞きたいんだろ?野球の結果ぁ」

笹「そうさぁ!うちの町内は勝ったのかい?
  隣町のヤツらを、こう、コテンパンにノシたんだろうなぁ?
  まぁ、でもね、お前ぇらがこうしてここで、昼から酒…
  それも上機嫌で“そば前”やっているとなりゃあ、な?
  だいたい分かるもんなんだけどよ~、でも、な?聞きてぇじゃねぇか。
  えぇ?さもないと、酒もう出さねぇよ、コノヤロ」

岩「もちろん、勝ったよ~!じゃなけりゃ、こうして飲んでねぇよぉ」

善「今日は気持ち良く勝ったぜぇ?
  ずっと見てたお天道様から、見物料取りてぇくらいだ」

笹「おうおう、いいねぇいいねぇ!
  それを聞いちゃあ、こっちも商いにハリが出てくらなぁな!
  商いは“飽きない”てぇ言うくらいだから、
  飽きずにやらなきゃいけねぇけれど、
  身内の勝ち負けによっちゃぁ、
  飽きるも何もやる気が起きねぇかも知れねぇ」

笹「よぉし、やる気出て来た!
  お前ぇら、蕎麦はどうするんでぇ。
  すぐ、茹でっちまって良いかい?」

信「おいおい、何ぃ言ってやがる、まだやり始めたばっかじゃねぇか。
  水差す気かぁ?」

笹「沸いた湯に水なんざ差したら、
  せっかくの湯が静まっちまうやな。
  水は差さねぇ。お前ぇらが飲んで食えば、
  俺っちのおあしになるからな。
  ただ、俺も働いている。
  見ろい、軒行く人も、ふたっ通りしかいねぇ。
  お前ぇらみたいに、お天道様が燦燦と照っている時分から、
  のべつ飲んでいる連中と、
  俺みてぇに、朝となり昼となり夜となり、
  のべつ働いている正直モンと…。
  本来本元ならぁ、
  お天道様が仕事をされている間ってぇのは、
  百歩譲って飲むにしたって、
  憚って飲まなくちゃいけねぇもんじゃねぇか。えぇ?
  それなのに、あぁ、それなのに、
  俺とお天道様は飲めねぇのに、
  お前ぇらは、飲んでいやがる」

信「なんでぇ、酒ぇ飲むのに、
  お天道様のご機嫌を聞いていちゃあ飲めねぇやな」

善「そうだぜぇ?
  蕎麦屋なんだから、口じゃなく、手ぇ動かせぇ。手をぉ」

岩「そろそろ盃(はい)が空になっちまったよぉ。次の酒、ちょうだいよ」

亀「なんなら、こちらで御酒、持って来ますよ。笹の冷蔵庫から。
  仕事の手間ぁ省けるだろう?」

笹「なんでぇなんでぇ!寄ってたかって!
  俺にも、おすそ分けを…ってぇ話だよ!えぇ?
  分かってたんじゃぁねぇのかい?」

信「へへ、まぁな。最初からそう言えってんだよ。盃、持ってんだろう?」

笹「ありがてぇありがてぇ。
  それじゃあ、仕事の合間だけれども、
  町内の勝利を祝って、やろうじゃねぇか、なぁ」

「ひの、ふの、みーの!かんぱー…」

*「あんたーッ!次の注文、入ったよー!」

笹「っと、とと。何だよ、ったくよぉ!
  頃合見計らって言ってねぇか。えぇ?
  この卓に、カカアの目ん玉でもついてんじゃねぇのかぁ?」

岩「え!?なに!?目玉ついてんのぉ?これにぃ?」

善「おいおい、気味ぃ悪いこたぁ言いっこ無しだぜぇ」

笹「モノの例えってぇ奴だよ。
  そんなカカアだったら、
  蕎麦屋たたんで、見世物小屋を商った方が儲からぁな」

信「まぁ、商いは“飽きない”ってぇ言うくらいだから…」

笹「飽きずにやれって?
  それはさっき俺が言ったんじゃねぇか!
  分かったよ、ちょっと行ってくらぁ。
  良いねぇ。
  そば前を乙に楽しんで、
  俺っち自慢の蕎麦でシャッと締める。
  お前ぇらは信州一の幸せモンだぜぇ。
  ま、ゆっくりしていきな。
  肴はどうすんだい」

信「まかせるよー」

笹「おう、任された」

そば笹が奥に引っ込みますと、
しばらくして、他所へ蕎麦が出て行き、
4人の卓には、追って4種の酒と、
4種の肴が並びます。
日本酒とは蔵元によって味わいが異なるもの。
それを飲み比べようじゃないか…と言う、
粋な趣向でございます。
味わいが違うんだから、
もちろん、合う肴も違って参ります。
これが合う、これがちょっと合わないかなぁ…
…なんて、とったりやったり、
「そば前」を楽しんでいる4人なのですが…。

岩「ねぇねぇ、ところでさぁ、“そば前”ってなぁに?」

善「んおっ、岩ちゃん、さっき笹坊が言ってたじゃねぇか」

岩「うん、言ってたよ。言ってたけどね、分かんないだよ」

善「…えー、そば前ってぇのは、あれだ、そば前はそば前だよ」

岩「そば前はそば前ってぇ、なぁに?」

善「うー、そば前はそば前ってぇのはそば前だよぉ…」

岩「そば前はそば前ってぇのはそば前…ってぇのは、なぁに?」

善「そば前はそば前ってぇのはそば前ってぇので、そば前がそば前の…」

善「お、おう、そんな事より、これどうだい。
  女鳥羽の泉の純米吟醸!
  青い瓶が綺麗なもんじゃねぇか!」

亀「おぅ、はぐらかしたね」

善「何を言ってんだぃ、亀さん。このね、女鳥羽の泉にね、
  つるむらさきとオクラのくずし豆腐和えってぇのが、合うんだよ」

岩「なぁなぁ、善さん。そば前…」

善「ささ、岩ちゃんもやっておくんな!
  つるむらさきもオクラもヌルヌルっとして粘りがあるよ。
  男は粘り腰じゃなきゃいけねぇ。粘り強くなきゃいけねぇ。
  つるむらさきの青い香と、オクラの青い香がまた別モンでね、
  どっちも夏っぽくてイナセじゃねぇか!
  そしてね、ダシと醤油を絡ませて叩き崩した豆腐と、
  これがまた合うんだよ~!
  カツブシおごっていてね、ダシの香がふわぁっとして、
  醤油の香がぷわぁっとして、
  口の中で、豆腐の豆の香が醤油と合って良いんだ!」

亀「おいおい、信さん、見てご覧よ。
  ほら、そば笹が乗り移ったみたいだよ」

信「おっ、確かにこりゃあ女鳥羽の泉、合うなぁ。
  スッキリしてんね。
  そこにつるむらさきも、オクラも豆腐も、
  どれをとっても香が乗っかってくらぁな。
  いいね。言う通り、カツブシの味と、醤油が良いんだな。
  そば笹のカエシか。
  舌の上に乗っかる肴の味と、
  酒の涼やかさが良い具合だ」

善「だろぉ!?
  さぁさぁ、そば前なんて忘れてみんなやっておくんな!」

岩「……で、その、そば前って、なんだい?」

善「う、うー、こ、この紫の茎の葉っぱじゃねぇかなー」

信「そりゃあ、つるむらさきだろ。言って名の如しじゃねぇか」

善「じゃ、じゃあ、さっきまでそこにあったの」

信「ありゃあ、うす焼きじゃねぇか。
  てめぇは何年、信州で暮らしてんだ。
  おっかぁに作ってもらったろ」

善「う、うー、うー……………」

岩「ありゃりゃ、固まっちゃったよ」

善「うー………わんっ!」

信「おいおい、おどかすんじゃねぇよ」

善「…そば前ぇ?さっき、笹の野郎が言っていた奴だろう?
  聞いたことはあるんだけどなぁ」

岩「善さん、分かんないの?」

善「あぁー、ちょいとお手上げってぇ奴だなぁ。
  信さん、分かるかい?」

信「えー…ほら、これを飲みねぇな。
  大信州の「純吟にごり」だ。
  冬に出たヤツを笹が取り置いていたもんだそうだ」

岩「白い!にごり酒ってぇヤツだね。
  トロッとしていて、米の香がいっぱいして旨いねぇ!」

善「信さん、それは俺がやったよう。
  知らないんだろぉ?」

信「馬鹿言え。えーと、あれだ。
  落語に「そば清」てぇのがあるだろ?
  あれは「そば好きの清兵衛さん」の話なんだ…
  だから、「そば前」ってぇのは、
  「そば好きの前田さん」の事だぜ」

岩「そば好きの前田さん~?
  この中に、前田さんなんていないよ?」

信「え、えーと」

亀「お、怪しくなってきた怪しくなってきた」

善「お、こりゃあ旨いね。大信州。
  夏の濁酒は滋養に良いって言うじゃねぇか。
  まさにそれだよ。もったりしてらぁ。
  これが舌に絡んで旨いね。
  原酒だね。強くって味にグイッと持ってかれるね」

亀「そうだね、善兵衛さん。
  これね、ほれ、このズッキーニの天麩羅と合うよ。
  ズッキーニなんて意外な天麩羅だけどね、
  これがまた瑞々しいのと、
  サクサクなのとがね、良い塩梅で混ざってね、
  ズッキーニの甘味が良くって旨いよ。
  そこに、大信州の力強い旨さが合わさって来るでしょう。
  ねぇ、どうだい。
  これ、旨いねぇ」

信「そうだ!善兵衛さん!」

善「あいよ、なんだい。
  今、大信州とズッキーニをやってるところなんだよ」

信「違うよ、お前さんだけど、お前さんじゃないんだよ。
 「そば前」の「前(まえ)」ってぇのは、「ゼン」って読むだろう?
 「そば」に「善い」で「そば善」で、
 「そば好きの善兵衛さん」…
  だから、そばが茹でて来たら、
  善兵衛さんの前において、「そばゼン」ってぇヤツだ!」

岩「善兵衛さんの前にそば置くから「そば前」ってぇの?
  そばマエとは違うじゃねぇかよ~。
  ウソだろう~?」

信「…ウソだよぉ。すまねぇ。あともうちょっとのところ…
  喉の奥に、こう、ね、つかえてんだよ。
  聞いた事はあるんだ。
  でも、喉の奥に、こう…
  酒をネ、飲んで通せば出て来るかも知れねぇ」

信「…ごくっ、ごくっ」

信「……うまい!」

亀「ダメだね、これじゃあね。
  でもまぁ、ズッキーニの天麩羅ってぇモンが旨いのは知らなかった。
  大信州のにごり酒も良いね。
  酒の体がしっかりしているから、
  油モンにも合うんだねぇ」

岩「亀さんは知ってンのぉ?そば前」

亀「ほら、来なすった。
  ささ、これを飲んでくださいよ。
  「粂次郎」純米原酒だよ。アルプス正宗のお酒だね」

岩「なんだか、あたたかい?」

亀「そうさ、ぬる燗くらいが良いって言うからね。
  笹がお酒をあたためてくれたんだよ。
  きな粉の様な、米を搗き蒸した様な、
  何とも、こう、深い香がするじゃあないか」

信「おいおい、これは知らない流れじゃあねぇのかい?」

岩「ほっこりして、おいしいねぇ…で、亀さん、そば前って…?」

亀「いいからいいから。
  ささ、これをやっておくんな。焼き味噌だけれどね、
  味醂やお砂糖で甘く仕立てた上に、
  ネギや胡桃をたっぷり入れてあるんだ。
  良い香だろう」

岩「ん~~!ちょっと焦げたところが良いんだねぇ」

亀「ささ、熱い所を箸で摘んでやってみておくれ。
  そそ、熱いからね、気をつけて―……どうだい?」

岩「わぁ!こりゃあ旨いや!甘くって、ちょっと塩っ辛くて、
  胡桃やネギがね、すっごく旨いんだぁ!」

亀「そこで「粂次郎」だよ~。どうだい?」

岩「わ、わわわ、甘さが増えるね、味噌の味も増えるね!
  いっぱい色んな味が出て来るよ!」

亀「引き立つ…てぇのはそう言うのを言うんだよ。
  酒が味噌の味を引き立たせてくれているんだ」

亀「さぁ、小難しいことは忘れて飲もうじゃねぇか!」

岩「そうだね、亀さん!」

善「おいおい、そりゃないぜぇ?亀さんよぉ。
  そば前はどうしたい?」

岩「あっ、そうだよ。亀さん、そば前ってなんだい?」

亀「ぐぅ…」

信「なんだい“ぐぅ”って」

亀「ぐうの音も出ないから、先に出してみた」

信「なんだい、こんだけ雁首揃えて、誰も分からないのかい?」

善「聞いたことはあるんだよなぁ。
  笹の字が、ついぞ言った時には、
  「あぁ、そりゃあ乙なもんだな」と思ったんだけどなぁ」

信「ずいぶんと粋な催し物みたいじゃないか。
  それか食いモンなのか?
  そば前、やってみてぇなぁ」

亀「そば前、そば前…そばで、前…
  そばで、出前…?
  あれかい、どっか別の店からそばの出前を取るとか、どうでしょう?」

信「どうでしょって…
  そんな事をしたら、笹の字が泣いて怒るよ。
  ひどいじゃないか、ふざけんなって」

善「なぁなぁ、考え込んでると酔いが覚めて来ちまうぜぇ?
  気にせず美味しく酒ぇ、かっ食らって、
  そば笹のそばを手繰って、締めようじゃねぇか」

信「その締めのそばを、もっと乙に食う方法だから、
  やってみたいんじゃないか」

善「…あれ、あれだけ「そば前ぇ、そば前ぇ」って言ってた、
  岩ちゃん、静かになっちゃったね。
  おい、岩ちゃん!何やってんの?」

岩「…えぇ?酒ぇ、飲んでるよ。岩波ってぇトコのね、
  本醸造原酒ってぇの。
  ちくわの蒲焼があるからね、これでやってんの」

信「おいおい、ひとり締めはねぇやなぁ。
  分けとくれよ」

岩「これね、岩波とちくわと行くとね、
  本当に旨いんだよ。分けない訳じゃないけどね、
  おいらの分もちゃんと取っておいておくれよ」

善「ずいぶん、お気に入りだね」

亀「おっ、この岩波ってぇの。甘いね。
  甘いけれど、ギュッて最後に辛く締めるね。
  ははぁ、こう言うのが、
  甘くタレつけた蒲焼に合うのか」

岩「ね、うまいんだよ~!」

善「学校給食を思い出すなぁ。ちくわの蒲焼。
  ガキの時分、よく食ったなぁ」

信「なんだい、その頃から酒ぇ飲んでたのかい?」

善「よせやい、学校じゃ飲まなかった」

亀「あはは、そりゃ結構だね」

「そば前」とは、何か…
男4人で考えてはみますが、
一向に、答えが見えて参りません。
そうこうしております内に、
「そば笹」が自慢のそばを持って馳せ参じます。

笹「よーし!おまちどう!そばぁ、持って来たぜ!」

善「わぁ、来ちゃったよ」

笹「なんだよ、来て悪いか?えぇ?
  いつもと違うじゃねぇか。
  普段は手放しじゃねぇか、
  わぁ~!…なんて、手ぇ叩いて喜ぶくせに」

亀「あぁ、いや、なんでもないんだ。なんでもない」

信「そうそう、なぁ?なんでもないなんでもない」

善「なんでもない、なんでもない」

岩「ナムホウレンゲキョウ、ナムアミダブツ」

笹「なんだい、念仏まで飛び出しちゃったよ。
  気味ぃ悪いじゃねぇか。
  ま、いいやな。
  今日はな、また一層の出来だよ。
  打っていて、こう、良い心持ちになるくらいの出来なんだ。
  さぁさぁ、食ってみてくんな!
  俺ぁ、次のがあるからよ!
  じゃあな!」

―――…ってんで、そば笹は昼時分の忙しさ、
息つく暇もない、商売繁盛、賑やかな喧騒の中、
ひときわ戦場となっているのでしょう、
厨(くりや)へと戻って行きました。

信さん、岩さん、亀田屋さん、善兵衛さんは、
面ぁ見合わせて、こう、どうにも出来ない。
岩さんが亀田屋さんの様子を伺うと、
亀田屋さんは善兵衛さんの顔をひょっと覗き、
善兵衛さんは信さんの顔を、信さんは岩さんを…
…ってんで、互いの面を見回しあって、まんじりとも致しません。
「さぁ、そばが来たよーッ」と受けて食らうには、
こう、腹にいちもつ控えると申しますか、
ここまで来たなら「そば前」の解決を見てから、
そばを食らいたいと考える次第でございます。

天下に名高き信州信濃のそばっ食いとして、
「そば前」なる乙なものを知らないのは恥。
生まれた時からそばの花を握り、
産湯はそばの茹で汁、
そばが育つと同じか、
身の丈ならばそれ以上に育ってきた生粋の信州っ子。
本日ばかりは、すぐに箸を伸ばす訳にも行くめぇと、
じりじりと、
そばが仇であるかの様に、じっと見つめて、
お悩みの様子でございます。

女「あい、すみません。うちのひと、います?」

亀「おお!?お?!お寿々(すず)じゃないか!どうした!?」

寿「あーら、おまえさん。やっぱりここにいたね。
  どうしたもこうしたもないよ!
  あらあら、大の悪ガキ連中が揃っておいでじゃないか。
  顔赤くして、昼間っから酒かい?」

亀「お、おお、そうですよ。今日は野球も勝ったし、
  天気も良いし、お天道様、こんちは~…なんつって、
  飲むには良い日和じゃないか」

寿「ええ、良い日和でしょうよ。私も用事があるのよ。
  休みの日くらい子の面倒を見ようってぇ気にならないもんかねぇ。
  子供たち、真っ直ぐに家に帰って来ちゃって、
  私が、出掛けられないじゃないか」

亀「な、なんだい。子供が真っ直ぐ家に帰っちゃいけねぇのかい?」

寿「いけなかないけどさぁ。今日はね、近所のおかみさん方と用事があるんだよぉ」

亀「用事ってなんだい?」

寿「えぇ、その、なんだい、ねぇ?……女子会」

亀「女子会!?お寿々がぁ?今ぁ流行りのぉ?よせやい!」

寿「なにさ!女子会に年齢制限も入場制限も何にもないんだよ!
  ほら!子供たち連れて来たから、
  引き取っておくれよ!お園、入っておいで」

園「おっとう~」

亀「よぅよぅ、お園、来たのか。
  なんだい、俺ぁみんなとこうしてやってんだよぉ?
  コブ付きじゃあ、楽しめねぇじゃねぇか」

寿「何言ってんだい。近所のおかみさんと…って言ったろ?
  みんな来てるよ!」

お鶴「ごめんくださいまし」

お高「くださいまし」

お亀「くださいまし」

信「お鶴!お前ぇも女子会か?
  あぁ、お高さんにお亀さんって、本当にみんな揃ってやがる」

*「おっとう~!とうちゃーん!」

善「おいおい、よしておくれよ。俺にもコブが出来ちまったよ~」

寿「さ、みなさん。用事も済みましたし、行きましょうか」

亀「ちょ、ちょっと待っておくれ。ガキども、どうすんだって?」

寿「もちろん、おまえさん達ン所に置いて行くんだよ。
  その為に、ここに来たんですもの。
  今日はね、お休みだから、お前さんが当番なの。ね?
  それじゃ、よろしく~」

亀「あっ、おい!なぁ!お寿々!おいっ…って、行っちまった」

信「相変わらずだねぇ、お寿々さんは…。
  亀さんトコだけじゃなくて、俺らぁ全員を巻き込みやがった」

亀「…その威勢が良いとこなんざ、たまらねぇなぁ」

信「また出たよ。何度のろけりゃあ済むんだい」

亀「見たかよ。そば屋の暖簾をくぐってしゃべり倒しの、
  颯爽と風切って出て行くなんざ、
  並の女にゃあ出来ねぇこったよ」

善「違いねぇ。そんなのうちのカカアにやられた日には、
  尻まくって逃げ出すよ。俺が」

子「とうちゃん、おなか空いた~」

信「おう、なんだい。ひでぇ女衆だなぁ。
  食わしてもらってねぇのか」

子「うん、そうなの。
  ねぇ、とうちゃん。
  そば笹ん中、良いにおいするね。
  これ、あのねぇ、カツブシおごってんでしょ?」

信「言うじゃねぇか。えぇ?
  おーい!笹坊!頼むぜ~!」

笹「おう。おっ、なんだよ~。頭数が倍になってんじゃねぇか」

信「悪いな!ガキどもに、そばでも丼物でもこしらえてやってくんねぇかな」

笹「おう、そりゃあ良いけどな…
  …おいおい、お前ぇら、俺が打ったそば、食ってねぇじゃねぇか」

信「お?お、おう。ちょうどな、食おうかなぁ…
  …てぇ時にカカア連中がやって来て、
  パアパア捲くし立てて、ガキ置いて行っちまったもんで」

笹「おいおい!よしておくれよ!
  そばの命は短いんだぜ~!味が落ちるんだよ~!
  上がったら、すぐに食ってくれねぇと!なぁ!
  それを知らない信州信濃のそばっ食いたる、
  お前ぇらじゃあねぇだろう?
  ほらぁ、見ろい!乾いちまって、
  そばッ面にハリがねぇじゃねぇか!」

信「すまねぇ。まぁ、こっちもいろいろあってなぁ」

笹「勘弁しておくれよ。
  まぁ、ガキども増えてるし、
  …亀田屋さんトコのお寿々さんだろう?
  声がよく通って、中まで聞こえていたぜぇ?」

子「笹のおじちゃん、ならあたいがそのそば食べるよ」

笹「いやいや、良いんでぇ。ありがとうな。
  これはうちで、カケにでもして食っちまうからよ。
  作り直してくらぁ。ちょっと待ってな!」

信「すまねぇな!頼むよー!
  ……いやぁ、そば笹に悪いことしちまったなぁ」

亀「そうだね、そば、勿体無くしちまったねぇ」

善「…そば前にこだわり過ぎたのが、やっぱいけねぇんじゃねぇかなぁ」

信「いやいや、それはそれ、これはこれだ。
  そば前なくして、そばを語るなかれだ。
  まだ、詰まるところ何も分かっちゃいねぇ」

岩「そば前なくして、そばを語るなかれぇ?
  いつからそんなになったのぉ?」

子「とうちゃん、そば前ってぇなに?」

信「う、うー。そば前ってぇのは…うー…。
  ようし、こうなったら腹ぁ決めたぜ!
  そば笹に恥を忍んで聞こうじゃねぇか!
  蛇の道は蛇、
  蕎麦屋のそば笹が知らねぇ訳はねぇしな!
  次、そばぁ持って来る時に聞こうじゃねぇか!
  そうして、気持ち良く「そば前」拝んで、
  みんなで、そばをたぐろうぜ~!」

善「そうだな、そうしようぜ!」

――…ってんで、ひとしきり。

Cimg5031

笹「よーし!おまちどう!
  どうだ、ガキ共の分も含めて、大ザルに設えたぜ!
  さぁ、たんっと食っておくんな!」

子「とうちゃーん!蕎麦が山の様だよ~!」

善「こりゃあ豪儀だねぇ!贅沢なもんじゃねぇか!」

わっ…と箸が伸びますが、信さん、皆を制止致しまして…

信「おうおう、おいこら、箸を付けんじゃねぇよ、ちっと待ちなぁ」

子「なんでー?」

岩「そうだぜぇ、食おう食おう!」

信「だっ、岩ちゃん!
  てめぇまで一緒になって、ピーチクパーチク言うこたぁねぇんだ」
  乙なね、先っちょがあるだろうがよ、えぇ?
  聞いてから、やってからでも遅くねぇって話をしたじゃねぇか。
  この蕎麦をもっと旨くして食おうって趣向なんだ。
  おう!笹の字、信州信濃の蕎麦ッ食い、
  恥を忍んで聞きてぇ事がある!」

笹「おう、なんだい。改まって」

信「酒は旨かった!肴も旨かった!
  ここまで十分に、満足しているが、
  そばを食う前ぇに、
  「そば前」てぇのをやってみたいんだ!
  ガキども含め、8名、頭を下げて願い奉るぜ!
  “そば前”ってぇのは、なんなんだい?」

笹「そば前だぁ?なに馬鹿言ってやがる」

笹「そばを先に食え」












あとがき……………………………酒落語・その四

気楽な所を一生懸命やって参りまして、
あとちょっと…と言う所でございます。
「酒 落語」の第4席「そば前」をお読み頂きまして、
先ずは、誠に御礼、申し上げます。

何とも長い噺になってしまいましたが、
マクラとか…そう言ったものが長いてんで、
実のところ、ネタとしては、
そう長くも無い、短い話なのかなぁ…なんて、
思うところもあったりなんか致しますが。

何より、新作落語には限りがありませんから、
これが師匠方の作品とかぶらない事を、
心から祈りつつ、更新をしている次第であります。

えー、
落語には「そば」を扱うものが多く、
有名な「時そば」、
「蛇含草」の別名もある「そば清」、
他に「そばの殿様」、「疝気の虫」など、
様々でございます。
これらとも、かぶりない様に仕立てたつもりですが、
もし、何か間違いがあったとするならば、
申し訳ない所でございます。

サゲは、
これまで「そば前」をさんざやって来た連中が、
「そば前」とは何か…聞いた先の答えになっております。

「そば前」…本来ならば「そばの前に酒、肴をやる」ことを言い、
「そばは後ろ」なのですが、
そば笹から出た答えは「そばを先に食え」――…
本来なら蕎麦のプロ、
そば笹からは「そばを後ろに、前に酒、肴、いっぺぇやることだ」とでも、
解説があるところに
逆に「そばを前に食え」…と言う事で、
11種あると言われる落語のオチの種類では、
これは「考えオチ」に区別されるものでしょうか。
いや、「仕込みオチ」ですかね。
何と言っても、
「そば前」をやりながら「そば前とは何か…」と、話し合う訳ですから。

書き始めた頃は、
柳家さん喬師匠や瀧川鯉昇師匠のイメージで、
書き口を整えていたつもりだったのですが、
この期間中に、古今亭圓菊師匠のCD-BOXを購入致しまして、
えぇ、これが人生で初めて購入する落語CDとなったのですが、
これを四六時中聞いておりますてぇと、
刷り込み…ってございますでしょう?
雛鳥が最初に見たものを親と思うってぇヤツ、
これよろしく、圓菊さんのイメージが、
書き口の中で現れ始めまして、
なんとも影響されやすい所を感じた次第でございます。

どうしてもどうしても書いてみたくて…
この「あとがき」の冒頭も、
圓菊さんの冒頭で、
「誘惑箇所の多いところ~」から続く、くだり。
自分には、
「そのまま気楽に…楽にして聞いて頂ければ。
 一生懸命、やって行きます」…と聞こえました。
敬意を心から込めまして、使わせて頂きました。
本当に圓菊さん、1度、聞いて頂きたい。
7月9日の菊生百夜、落語会で、
お弟子さんである古今亭菊生師匠にお聞きしたところ、
圓菊さんの最も脂が乗っていた時代の収録だそうです。
どの噺も、とても良い内容でした。

どうでしょう、「そば前」…
みなさんは、された事がおありでしょうか。
蕎麦屋と言うものは、日本酒の揃いが良い…
…なんて言われる根源の様なネタでございます。
「そば前」が粋だってんで、皆さんおやりになる…
だからこそ、日本酒の揃いが良いのだと感じておりますが。

かく申す所の私は、蕎麦屋では、その経験がございません。
けれども、
松本市内の私が思ういちばん旨い蕎麦を出す店は、
実のところ、居酒屋さんでして、
ここで〆に蕎麦を頂く…と言う事は、
数年前より、
最高に幸せな気分になる呑みのひと時でございます。

夏と日本酒…と申しますと、
「柳陰(やなぎかげ)」と呼ばれる、
今ではあまりお耳に入らない言葉がございます。
夏の風習、大名酒として、
非常に贅沢なもので、
落語「青菜」の中にも登場いたします。

「そば前」として、柳陰を登場人物に飲ませてみようか…
そんな風に思ったりもしたのでございますが、
いやいや、
町民文化の蕎麦と大名文化の柳陰を、
いくら身分制度のない現代噺とは言え、
一緒には出来ないなぁ、合わないなぁ…なんて考えました。
けれども、
それを一緒に出来てしまうのが、
逆さになって今らしいのかも知れませんが。

結局は、料理と合わないのではないか…と、考えました。
お大名様が暑い時分に癒されるべくたしなんだ「柳陰」は、
今で申しますと…
えぇ、非常にざっくばらんに例えますならば、
焼酎と味醂のカクテルになるんだそうです。

これをとったりやったり、
料理と合わせている皆の衆のイメージは、
ちょっと思い浮かばないなぁ…なんて、思う訳でございまして、
本編からこぼれたお話でございます。

今回、登場した日本酒は全て実在しております。
特に蔵元さん方にお銘柄の使用許可を得た訳ではなく、
あくまで同人誌的に書いております。
料理は想像で、
「この蔵の日本酒には、これを合わせると旨そうだ」…
…そう思ったものを書き添えました。

登場人物は登場した日本酒蔵が存在する、
長野県は松本平、
松本酒造組合の皆々様から、
えぇ、こちらも勝手ながらにご拝借を致しました。

中心人物の4名様。
信さんは島立の大信州酒造、
岩さんは里山辺の岩波酒造、
亀田屋さんは島立の亀田屋酒造店、
善兵衛さんは、松本市街地の善哉酒造から。

岩さんには、与太さん的ポジションを担って頂きました。
亀田屋さんは、ちょっと旦那っぽいイメージ。
信さん、善兵衛さんが進行役と言った所でしょうか。

舞台となる、
「そば笹」は島立の笹井酒造、
先ず1杯で飲みました「笹の誉」を醸している蔵元です。
登場する特別純米生は、
今夏、ナンバーワンヒットの美味しさでした。
普段通り4合瓶を買った後、
もっと飲みたくて1升瓶を買ったほど。

途中、ミョウガを採って来てくれたと言う、
「坂北の山さん」は、
筑北村坂北の山清酒造から。

4人のおかみさん…女子会に集うご婦人は、
お寿々は洗馬の美寿々酒造、
お鶴は松本市市街地の奥沢商会“深志鶴”、
お高は塩尻の高波酒造、
お亀は塩尻の笑亀酒造から。

子供衆で唯一名前の出て来た、
お園は、酔園…EH酒造から…となっております。

明科の廣田泉、四賀村の月光については、
使おうと思いながらも、入る隙がございませんでした。
何卒、あしからず…と言う所でございます。

さて。
長々と書いて参りました酒落語。
そろそろお時間となって参りました。
それでは、これにて。
読んで下さった方のご一笑になりましたらば、幸いでございます。

ありがとうございました。

ありがとうございました。

酒 宗夜
酒落語・第4席「そば前」
2011年7月26日。

Cimg5032

落語書くときに思っていることなんざ、そんなにないんです。
ただ、酒が取り巻く、こう…何かが好きで、
これを読んでくれた方が笑ってくれたならって考えるだけで、
すごく楽しい。

蕎麦の写真は穂高有明の「くるまや」名物、
「気狂いそば(5人前)」です。
先日、美味しく2人で食べ干しまして、
その際のお写真を、
作中の蕎麦の盛りのイメージとして、
勝手ながらに使わせて頂きました。
ありがとうございました。

次回は再び中野市に戻って、
「中野の土ひな」と言う一席を考えております。
もし、よろしければお誘い合わせの上、
ご高覧頂けましたら幸いです。

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2011年4月26日 (火)

酒落語「 のぼり鯉 」

酒落語「 のぼり鯉 」

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えー、いっぱいのお運びでございます。
揚々として、端午の節句、鯉のぼりが立つ陽気になって参りました。

早速ではございますが、都都逸(どどいつ)をひとつ。
え、落語を聞きに来たんだ、都都逸たぁどう言う了見だって?
ええ、ごもっともでございます。
そんな方には、たいへん良い方法がございます。
こう、両の手のひとさし指をお出し頂きまして、
“ちゅっちゅっ”とツバキを付けて頂く。
そうして、グイッと耳にやります。
そのまんま、一節分だけお待ち頂ければ、ええ、よろしいかと存じます。

…なんて事は申しませんが、お付き合い願いまして、
えー、では、テトン、テントトン……

♪信州信濃の 新そばよりも あたしゃあなたの そばがいい

―――てなぁ、ええ、たいへんにオツなものですな。

江戸の世は、七・七・七・五の調子の
都都逸をたいへんな洒落事としておりまして、
ええ、粋なものとして流行ったんだそうです。
今はあんまり聞きませんが。

江戸の世にあって、今の江戸…東京にない、
あんまし見掛けられないてぇのは、
思いのほか、ある様に存じます。
こうして落語を聞いておりますと、
「昔はそうだったんだなぁ」なんて知ることも多くございます。
かえって、今も昔も変わらないものを探すほうが難しい。
足で移動、馬で移動は、鉄の馬…電車や車になり、
提灯、ロウソク、街の明かりはネオンに取って代わっている。

ただ、人…と言うものは変わりませんね。
変わっている様で、実の所は変わらない。

その最たるものは、
やっぱり「恋」や「愛」…
ともすりゃあ裏返って「憎しみ」…
“可愛さ余って憎さ百倍”とも申します。
ええ、男と女の交わり合いでございますな。
これは今も昔も、変わりは無いものだと存じます。

♪寝ても覚めても あなたを思い 思いよ届けと じっと見る

―――なんて様子の良い女の方に、
そんな風に見つめられたなら、
男はたまらないものがありますな。
これが逆さになって、
野郎が女の人をじっーと見て、付け回すってぇなると、
なんとも具合が悪い。
ちょっと間違えば、手が後ろに回っちまいますよ。
ええ、男と女が逆さになっただけなんですけどねぇ。

惚れた腫れたのお話は、酒の席からお茶の席、増して井戸端まで、
いつでも飽きの来ないネタでございます。
現代での若い娘の方々は、
「恋のおはなし」で「恋バナ」…なんて略される様ですな。

江戸の時分は心中物、昭和になったら駆け落ちのドラマ。
恋とか愛だのの究極の形として、憧れられたりもしました。
「あたしも、そんな素敵な恋がしてみたい」…
手に手をとって男と女が命を賭して、
思いを、愛を、貫き通す…
たいへんに粋なものとして、珍重されていた様でございます。

♪愛しくて 命懸けてと 君愛すれば 相成れぬなら あの世へと

恋愛モノから急にサスペンスになっちゃう。
ギラリ、出刃を両手で握り締めて、
「好きよ!死んで!」
…んー、一緒になりたいんだか、この世とお別れしたいんだか。
えぇ、随分と、物騒なことでありますが、
無い事も無い、それが惚れた腫れたの話ってぇもんです。

いつの世にも、色恋沙汰には、
そうした物騒な事が背中合わせでございまして、
自分の身に振りかかって来る…てぇと、
これほど面倒なものはありません。

ただ、ただ、難しいのは人の常。
自分がぽーっと誰かに惚れっちまうと、
それを誰かに話したくなるってぇのが人情でございます。
自分の身に他人様の恋路が振り掛かるのは嫌でも、
他人様に自分の恋路を振り掛けるのは大好物…とは、
お定まりとなっている訳でございます。

こうしたら良い、ああしたら良い、
恋の相談を惚れたご本人さんに出来れば…なんて、
そんな簡単な事はありません。
出来ないからこそ、
悩んで悩んで、誰彼に話をしたい、と
夜もまんじりともせず、思い耽るものでございます。

信州信濃のある街に、
康治(やすじ)さんと言う方がいらっしゃいまして。
これがたいへんに惚れっぽい方であったそうです。

道を歩けば棒に当たる…でなくて、女に当たる。
気が多くて、色んなご婦人に声を掛ける。
下手な鉄砲、数打ちゃ当たる…なんて、申しますが、
ご婦人方も、そんな気の多い方には、あまり良い顔はしませんね。

振られ振られて三三振、散々でタコの1日。
♪ひと目あったその日から、恋の花咲く事もある…で、
かっーっと茹でタコにみたいになって、
打席に立つんですけれど、いっつもノーヒット。

「おぅ、ちょっとそこを行く、お嬢さーん!」

「………ふンッ!」

タコを叩いてばかり。
でも、康治さんは、よしゃあ良いのに諦めない。

久「なぁにぃ?また惚れただぁ!?」

康「ちょ、ちょっと声が大きいよ、久治の兄さん」

久「なんだいなんだい、えぇ!?声も大きくなるだろうよ。
  ついこの前、ほんのついこの前じゃねぇか、
  志賀屋の泉に惚れて、声掛けて、振られて、
  ワンワンここで泣いて、だよ?
  終いにゃ、“もう恋なんてしない”って言ってたじゃねぇか!」

康「やぁ、そんな事もありましたねぇ。泉もイイ女だった…」

久「ちぇっ、付き合ってもいねぇのによく言うよー、ええ?
  何かい?今度は誰に振られんだい?」

康「縁起でもねぇなぁ、兄さん!まだ言ってもいないんスよ。
  振られンのはその後じゃねぇスか」

久「ほれ見ろぃ、やっぱり振られるんじゃねぇか、やめとけやめとけ!」

康「…あっ、いや、後生でスよ、ええ?酷いもんじゃないスか。
  今度の今度は本気なんスよ。岡惚れなんかじゃあ、ありません。
  本惚れも良い所!本惚れ中の本惚れでさぁ!」

久「…おい康、康公よ。おめぇに良い都々逸があるよ」

康「おっ、良いスねぇ。恋の花咲く事もある、
  明日も咲け咲けもっと咲け~♪とかですかい?」

久「ん、岡惚れ三年、本惚れ三月、思いを遂げたは、3分間~♪…てぇ、ヤツだ」

康「ちぇーっ、なんでい。さっきから兄さん、酷いもんだよ、えぇ、ほんッとうーに。
  今度の今度はね、今までとは違うんでスよ。本気なんス」
 
久「膨れるこたぁねぇだろう。こっちぁ心配して、言ってんだよ」

康「もうね、奴さんも、あたしに惚れていますよ、ええ。
  何度だって目があってンです。言葉なんざいらないくらいに、
  俺たちぁ…んー、あれだ、その、好き合ってンですよ。
  お互いにマブ同士ってんス」

久「おうおう、えらい自信じゃねーか。ほんっとうによくめげねぇもンだ。
  康坊のそこンところだけにゃ、敬服するよ。
  おぅ、それじゃあ、まぁ、しょうがねぇからな。
  めでてぇお前ぇさんに、酌をしてやろうじゃねぇか」

康「へぇ、兄さん。ありがとうござんす。
  …っとっと。おっと、兄さんは手酌で?
  いやいや、注ぎますよ」

久「なぁに、気にするねぇ。おぅ、関の大将!肴ぁ、こしらえてくださいよ」

関「あいよ、久治さん。何にするんだい。イイ所でも切るかい?」

康「良い所!刺身ですか!鯛が良いスねぇ、ゲンを担ぎたいもんでさぁ。
  惚れたあの子のほっぺたみたいに、
  赤い鯛の尾を持って、こう……刺身にしちゃう」

関「鯛なら今朝上がったばっかりのがあるけどよ」

久「いいんだ、大将。やっておくれよ。
  俺ぁこれから、康公のノロケを聞かにゃならねンだ。
  やたら熱心に“兄さん、ちょっと1杯!”なんて言うと思ったンだよ。
  えぇ?
  せめて、大将ンところの旨い肴ぁ食らって、
  良い心持ちにならなけりゃ、釣りが来ねぇよ」

関「久治さんも、相変わらず人が良いねぇ」

康「やぁ、ほんっとうーに、いつもいつも兄さんには世話になってまス」

久「世辞はやめろい。気味ぃ悪いじゃねぇか」

関「鯛のいちばん良いところをお出ししますよ」

久「おぅ、大将、酒も何か他に見繕ってくださいよ」

関「へぇ、さぁて、どれを出そうかね…」

飲み屋の大将に酒の願いを出しますと、
久治はグイッと康治の面を向き直りまして、聞きます。

久「で、だ。七面倒くせぇから聞いてやるが、
  なんだい?えぇ?今度の今度は、何処の、誰に惚の字なんだい?」

康「おっ!来ましたね。やぁ、そうなんでスよ。ねぇ?
  ちょっといいことになってンでスよ」

久「お前ぇの“いいこと”はタカが知れているよ、えぇ?
  どうせ、あれだ、こっち向いて笑ったとか、
  そんな所じゃねぇのかい」

康「そんなんじゃねンス。ちゃんと小指と小指が触れ合ってンス」

久「小指と小指ぃ?なんでぇ小指って」

康「こう、ちゅっちゅって」

久「ちゅっ…て、康、お前ぇ、酒が腑に落ちる前から、酔ってンね。
  えぇ?いつから飲んでんだい。馬鹿言うねぇ!?えぇ?
  どうせ、どっかで飲んで、うっちゃられて、
  道沿いで都合の良い夢でも見たんだろ?えぇ?」

康「赤い糸って、幅広なものなんスねぇ…」

久「おーい、聞いちゃいねぇよ、これだもの。ぽーっとしてんの」

関「おっ、そうだそうだ。久治さんね、酒、ちょうど具合の良いのがあるよ」

久「おう!いいね!こんな馬鹿っ話、聞いてられっかって。
  何がちゅっちゅっ…てンだ」

関「あぁ、たぶん康さんは赤い糸が結ばれた…って言いたいんじゃないかねぇ」

康「そう!そうそうそう!それなんスよ!大将!赤い糸!」

久「康よ、ほんっとうーに、お前ぇはめでてぇヤツだなぁ…」

関「酒はこれだよ、康さんの恋の話をしてンだろ?
  ほれ、鯉の絵が描いてある」

Photo

大将がドン、と置いた一升瓶には、
「勢正宗」と銘が書いてございまして、
その脇に、こうピチピチ!っと水面から跳ねた、
威勢の良い、ナリの良い鯉が描かれております。

久「…鯉が描いてあるって…洒落かい、大将?」

康「いいじゃねぇスか、大将!ええ!こりゃあいい!
  鯉のお酒で恋に酔っちゃうなんて、粋なもんだ!」

久「けーっ、どこが粋なんだい」

関「むくれちゃいけねぇよ、久治さん。
  この酒はね、由緒正しい必勝祈願、
  縁起がたいそう良い酒なんだよ」

久「恋で鯉の酒ってだけじゃねぇのかい?」

関「当たり前だよ、さ、まずは1杯やってみておくれ」

康「へいっ!恋の鯉の酒、ありがたく頂戴つかまつりまする!」

久「…ったく、調子が良いもんで」

関「これはね、信州中野の酒なんだ。
  ま、書いてあるけどね。
  名を『いきおいまさむね』と言う」

久「へぇ、おっ、と、ありがとありがと。並々と注いでくれたね。
  おぅ、じゃあ頂くとするか」

康「この思い、届きますよ-に!!」

久&康「ぐびっぐびっ…」

康「おっ、こりゃあうまいスね!」

久「いいねぇ、優しい味だ。じっくり染みてくらぁ」

関「だろう?造り手のおいさんも良い人なんだ。
  あったけぇお人でね。
  おいさんのぬくもりが酒に現れてる」

久「で…大将。なんだって、これが縁起が良いんだい?」

関「おう、そこなんだよ。聞いておくれ。
  『勢正宗』の“勢い”てぇのは、
  男子必勝、元気溌剌の証だよ。
  百才躍如、万事がうまく行く様に願う気持ちから、
  名付けられたものなんだ。
  「鯉の滝登り」は久治さんも知ってンだろ?
  勢いが正にあるもの、勢いの証の鯉の酒なんだよ!」

康「……あー、えっ…」

関「なぁ、康さん?いいもんだろ?」

康「…えぅ…そ、そう、つまり、縁起が良いんスね?」

久「…おめぇ何にも分かってねぇな?」

康「恋の酒ってぇなら分かるんスが、小難しいのはちょっと…」

久「鯉の滝登りってぇのは、あれだな、故事ってやつだ。
  「登竜門」って知っているか?」

康「あれスかい、花街通いの登竜門とか言う…」

久「ちぇっ、お前ぇはどこまで行っても女の話ばっかりだなぁ!
  あー、間違っちゃいねぇけどな」

康「当たりッスか!じゃあ、恋が叶うと!」

久「馬鹿言え。それとこれとは別だってンだよ。
  古い話でな、「竜門」と呼ばれる、
  そりゃあ、のっぴきならねぇ急流があってな、
  もし、この急流を鯉が登って行ったなら、
  その鯉は竜にも勝り天に昇る、
  竜になって天に昇る…竜門を登るから、
  「登竜門」って言うんじゃねぇか」

康「それがこの酒となんか関わり合いがあるんスか?」

関「大アリだよ、康さん!
  まぁ、恋に鯉を掛けてはいるんですけどね」

久「…つまりだ。いいか、康。
  急流を乗り越える鯉、
  鯉の勢いてぇのは、たいへんにゲンが良い。
  物事を成功させるために、
  たいへん勢いを付けるものだってんだよ」

康「ぐびっ、ぐびっ、ふんふん」

久「飲んで聞いて、良いご身分だね。てめぇの話をしてンだよ」

康「ぐびっ、いやぁ、旨いんスよ。この酒」

久「そりゃあ、分かるけどもよ。
  いいか、つまりは鯉に恋が掛かっちゃいるが、
  関の大将はな、
  お前ぇの恋が成功するように、
  必勝の縁起酒を、ほれ、俺らに飲ませてくれてンだよ。
  分かるか?」

康「ぐびっ!なるほどー!!ありがとうござンす!」

久「ちぇっ、分かってンのかねぇ」

康「分かってまスに決まってンじゃねぇスか!
  必勝必殺!縁起の良い恋の酒!」

久「必殺してどうするよ、おい。
  でも、確かに良い酒だなぁ。
  ほっとさせてくれらぁ。
  …で、そりゃあそうと康よ。
  今度の子はどこの誰なんでい?」

康「へぇ、おキヨちゃんなんス」

久「キヨ…?どこのだい?長屋のキヨはこの前、米寿だったじゃねぇか」

康「違いまスよぅ、ねぇ、あの、おキヨちゃんなんス」

久「なんでい、ナヨナヨしやがって気味ぃ悪いなぁ」

康「……あの、井賀屋のキヨちゃんなんス」

久「井賀屋ぁ!?あの大店(おおだな)の!?」

康「ちょっと久の兄貴、他にお客さんもいるンスから、
  そんな野暮な、おっきな声出しちゃいけませんヨゥ」

久「うるせぇ!えぇ!?これが黙っていられっか!
  ちったぁ脈のある話かと思ってみたが、
  あ!お前ぇ、どうやらほんっとうーに夢見てやがったな!」

康「違うンですよ。これがねー…ねー、えー、いやぁ照れちまいまスなぁ」

久「けっ、どう違うんでい。
  井賀屋ン所の娘さんって言うと、
  正真正銘のお嬢だってンだよ、えぇ?知ってんだろ?
  あんな大店、ここいらにゃ他にないよ?
  深窓のお嬢様ってヤツだ。箱入りだよ。
  俺らにゃ会うことすら、適わねぇご身分だ」

康「でも、繋がっちゃったんス。赤い糸が」

久「康、お前ぇどうも様子がおかしいよ?えぇ?
  なんでい、何があった?」

康「今日ね、仕事前ぇに神社にお参りに行ったんでさぁ」

久「おう、結構なもんじゃねぇか」

康「へぇ、で、ですよ。
  そこにおキヨちゃんがね、
  ふたりの女中さんを連れて現れたんです」

久「うんうん、それで」

康「あっ、久の兄さん、酒と肴、もっと注文して良いスかね?」

久「あぁん?あぁ、まぁ、良いけどよ。で、どうなったんだい」

康「へぇ、ありがとうござンス。
  で、“はぁ、綺麗なもんだなぁ”とあたしは見惚れておりました」

久「うんうん」

康「今朝方ぁ滅法、風が強かったもんだから、
  こう、どこからともなく、ヒラヒラ~っと飛んできまして」

久「飛んできたって…なんだ、お前ぇの言う、
  運命の赤い糸ってヤツか?」

康「そうなんス。赤いフンドシが…」

久「はぁ!?」

関「なっ、なんだって!?康さん、こっちぁ包丁持ってンだよ。
  イキナリ冗談はよしておくれよ」

康「大将、冗談なんかじゃありませんよ。
  でね、その赤いフンドシが、バサーッと、
  おキヨさんの顔に覆いかぶさったんス。
  「あーれー」と、か細い声が聞こえるわけでさぁ。
  そこであたしは駆け寄って行って、
  「大丈夫か」と助け起こしまして」

久「………おう、それで?」

康「奴さん、てめぇの顔にフンドシが引っかぶったのを知ると、
  もー、真っ白くて透き通る様な肌が、
  見る見る真っ赤になりましてね。
  茹でダコって、あぁ言うのをお例えになるンでしょう。
  『どこのどなたか存じませんが、
  こんなお恥ずかしい所をお見せするとは、
  どうかご内密に…』ってんで、
  大慌てで戻って行っちまった…って事になっちゃったんス」

久「…それで、恋の赤い糸だって?お前ぇは言っているんだと?」

康「そうなんス。手に残る赤いフンドシ…いや、赤い糸を、
  あたしはギュッと握り締めました。
  契りの赤いフンドシに違いありませんよ。
  どこの誰のフンドシか知りませんけどネ。
  オボシメシに違いないンす」

久「お前ぇ、そりゃあ…。しっかりしなよ、気を確かに持つんだ」

康「へぇ、任せてくだせぇ!
  きっちり、このめぐり合わせをモノにしてみせます!」

久「………おいおい…呆れて口が馬鹿になっちまいそうだ…」

康「おっと!久の兄貴、すんません、ちょっとハバカリに行って参ります。
  いっぱい飲んだもんで、えぇ、ちょっとすみません」

久「…お、おう」

久「……………………」

関「ね、ねぇ、久治の旦那…」

久「大将、みなまで言うねぇ。
  めでてぇヤツだとは思っていたが、
  こりゃあ、筋金入りどころじゃねぇな」

関「必勝の酒、効きますかねぇ」

久「おう!酒は旨いよ!本当に旨い!良い酒だ。
  康は、まぁ、どうにかなンだろ。
  命まで取られる事にゃならねぇだろうしなぁ」

久「だがなぁ…康が思う様な事だけには、
  ならねぇね。あぁ、違いねぇ。
  あれだね、大将。
  今日は勢正宗からたっぷり元気を分けてもらえりゃ良いさ!」

…と、そんな晩がございまして。

しばらく後の、再び宵の口の事でございます。

久「おぅ、ごめんよ。こんちは」

関「久治さん、いらっしゃい」

久「ついでに、面倒くせぇのもいるけどよ、旨い肴、食わしてやっとくれよ」

関「面倒……あぁ、ああ、康さんかね。分かりましたよ」

康「…………グスッ」

関「や、康さん。いらっしゃい」

関「……わぁぁぁ!おーいおいおいおい」

暖簾をくぐるなり、康治は突っ伏して泣き始めます。
まぁ、毎度のことでございますので、
わざわざ関の大将も気にしない。
終いには、馴染みの客なんて、
壁に「正」の字こしらえて
「連敗街道まっしぐら」なんて、言い出す始末。

関「康さん、やっぱり振られたかい?」

康「おーいおいおい、分かりますか~」

関「鼻水出ているよ。まぁ、そりゃあ見りゃ分かるさ。残念だったねぇ」

久「だーから、言わんこっちゃねぇってんだ」

康「おっかしいなぁ、うまく行くはずだったんスけどねぇ。
  関さんの縁起モンの酒も飲んだのになぁ」

久「必勝の酒よりな、あれだ、
  どっか別の女がお前ぇ欲しさに邪魔したんだよ」

康「どっかぁ?別のぉ?誰なんです。器量良しですか」

久「そんなのは知らねぇよ。どっかはどっかだ。めげなさんな」

康「ふえっ…えぐっ、どこにいンのかなぁ。方々声掛てンのになぁ」

久「んー、お前は図に乗りやがるからな。
  あんまり言いたかねぇんだが、
  結構、様子が良い方なんだよ。ええ?
  ただ、ちょーっと方々に声掛けすぎなんだ。
  分かるか?
  お前さんは、まぁ馬鹿だが愛嬌があるからな。
  案外、近い所に、
  お前さんを好いている、
  添い遂げたいって女もいると思うぜ?」

康「…そうなんですかねぇ、そんな女いるんですかねぇ。
  辛いなぁ。こんな辛いンなら、
  もう、恋なんてするの止めっちまおうかなぁ」

久「おう!ふさぎこんでんじゃねぇよ!元気出しなぁ!」

康「……へぇ、ありがとうござんス。…うぅっ」

久「…どうにも湿っぽくていけねぇなぁ。
  この前と大違いだよ…」

給仕女「どうぞ、肴をお持ちしました」

久「…あれっ、こりゃどうも見ない顔だねぇ」

関「おう。新しく雇ったんですよ。
  お手柔らかに、よろしく頼みますよ」

久「おう!そうかそうか。おっ、ありがとよ。へへ、気が利くね」

給仕女「どうぞ、よろしくお願いいたします」

康「………」

久「おい、康公。おめぇも何か言いなってんだよ、ええ?」

康「………ぽっ」

久「おいっ…てんだ。おい?」

康「………ぽっ………ぽっ」

久「あ!?あっー!?テメェ、まさか!またかコンチクショウめ!」

関「じゃあ、お領ちゃん、次はこれを旭の間に持って行っておくれ」

領「あっ、はい。康さん、久さん、失礼します」

久「おうよ!ありがとな」

康「久の兄さん……」

久「いやいやいや、聞かねぇ!聞かねぇぞ!」

康「久の…久治のお兄さま……」

久「き…聞きたかねぇけど…なんでい?」

康「………あのね、“康さん”って呼ばれちまったよ…」

久「おいおい、お前ぇ、今日は振られたから飲むんじゃねぇのか。
  ちょっと、おい、口がだらしねぇ事になってんじゃねぇか!」

康「新しい恋スよ、久の兄さん。こんな所に恋があるなんて!」

関「こんな所たぁ、随分だねぇ。康さん」

康「いやいやいや、掃き溜めに鶴って言うじゃねぇッスか。ねぇ?」

久「おいおい、関の旦那が怒らないうちに止めときなよ。ほら、包丁持ってンだよ」

康「おう!あの娘さん、なんて言うの?」

久「お・ま・え・は!聞いてないのか、ええ!?どっからだ?ハナからか?」

関「いいよぉ、久治さん。康さんね、お領ちゃんって言うんだよ」

久「…甘やかしちゃいけませんよ。関の旦那ぁ」

関「いいんでぇ。掃き溜めに鶴だって?ええ、また振られっちまうと良いんですよ」

康「良ーい名前だなぁ。お領ちゃん、康さん、お領ちゃん、康さん…良い掛け合わせじゃねぇかぁ…」

久「かーっ!付き合っていらんねぇな。おう!関の旦那!この前の酒をおくれよ!
  あれだ、えー、勢正宗。必勝の鯉の酒だよ。
  逆さにして飲んでやる。康公の必勝ならぬ必敗祈願だ」

康「おいおい、久の兄さん、そりゃヒドイよ。ええ?
  俺も飲むよ~!鯉の酒で、恋成就の祈願をせにゃならねぇんだ」

久「ケッ!いいさ、飲みねぇ。まあね、恋だなんだはともかくだ。
  酒は旨く飲みてぇからな。旨い酒ならなおさらだ」

久&康「ぐびっぐびっ」

康「あぁ、旨い!勢いの神様、のぼり鯉の姿の、恋の神様、どうかどうかこの恋が叶います様に!」

久「ちぇっ。おい康よ」

久「そんなに恋、恋、言ってっと、上ぇ、登って行っちまって、タコにならぁ」






あとがき……………………………酒落語・その参

はい、ご高覧の程、誠にありがとう存じます。
しばらく落語を聞き耽りまして、
前々回よりは、前回よりは…と、
お聞き苦しくなっておりませんならば、幸いに存じます。

さて。

今回のサゲは、野球用語から頂きました。
ゴルフの際にも、不調を言ったりしますかね?
野球で1本も打てない事を「タコ」と呼ぶのだそうです。
手も足も出ず、
釣りで「ボウズ」と呼ぶのに等しい意味合いです。
草木も生えずにツンツルテン。

登竜門とタコと凧の掛け合わせ…となっております。

今回の登場人物名は、
分かる方には分かるかも知れません。
もし、お分かりになったのであれば、
相当の通の方に違いありません。

主だった登場人物は、
康治さん、久治さん、関の大将の3名さん。

関の大将
康治さん(客・主人公)
久治さん(客・兄貴分)

↑ いちばん左の文字を立て読み。

今回登場した信州中野の銘酒「勢正宗」、
丸世酒造店の社長さんのお名前から頂戴いたしました。

間違っても、勘違いしてはいけないのは、
関さんが惚れっぽいだとか、
そう言う話じゃあありませんので。
ご注意を。
とても素敵な社長さんで在らせられます。
中野に行く度、会いに行きたくなります。
岩清水→勢正宗→三幸軒ルート、
僕の中では鉄板中の鉄板です。

「勢正宗」の酒が優しい雰囲気を持ち、
和やかに旨い、と言うのは、
自分はその通り、間違いの無いものだと存じます。
その旨さはノンフィクション、と言うことで。

他の登場人物も、
同じ中野酒造組合の面々を使わせて頂きました。

志賀屋の泉 → 志賀泉、
井賀屋さんのおキヨちゃん → 井賀屋酒造場・岩清水、
新しい給仕さんお領ちゃん → 天領誉、
旭の間 → 旭の出乃勢正宗。

書いている時には、
玉村さん家のお縁ちゃんなんてぇのも考えてはいたのですが、
「お玉ちゃん」も良いなぁ、なんて考えている内に、
噺の中から消えて行ってしまいました…。
申し訳ない…。

と。

管を巻いては居りましたが、
さて、本日この一席もここまでとさせて頂きたく存じます。
最後までのお付き合い、
御礼を重ね、申し上げまして、
お開きとさせて頂きます。

おあとがよろしいようで。

酒 宗夜
酒落語・第3席「のぼり鯉」
2011年4月26日。

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2011年3月10日 (木)

酒落語「 鷹の目 」

酒落語「 鷹の目 」

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えー、これから暫しの間、お付き合いを願いますは、
夜の話、酒の話でございます。
酒好きが心から酔っ払うだけの話ってんで、
ええ、どうぞ心持ちを楽にして頂きたい、と存じます。

「居酒屋」てぇのは世の中に“ごまん”どころか、
何千何百もあるもんだとして、
“ナニガシ専門”と謳っておる店も、ちらほらとある訳でございます。
牡蠣ばかり置く店ならば「牡蠣専門」、
焼酎ばかり「焼酎専門」、
焼き鳥屋は「鶏専門」とお決まりにございます。
お姉ちゃんのいるお店なら…
…えぇ、これはちょっとばかし専門外である気も致しますが。

こう言った店の良い所ってぇのは、あれですね、
目的に合って楽しむ事が出来る、これに尽きるんだと思うんです。
「これを食べたい」
「あれを食べたい」
現代にゃ客様の「ニーズ」ってぇものがあるんだそうで、
コンビニだの、スーパーだのと同じ様に、
何でも揃えておけば良い、と言う訳でもないんだそうです。

「ナニガシ専門」、
この看板がデンと店の前に建っているだけで、見栄えもするもんです。
どんなお店かすぐ分かっちゃう。
それを食べたきゃ「あいよ、ごめんよ」と
ちょっと暖簾を持ち上げて、入って行けば良い。
気に入らなきゃ通り過ぎりゃ良いんだから、話が早いってもんでしょう。
何でもあるってぇのは、何も分からないってぇ事ですから、
ええ、大好物の食い物だけないなんて、
箸にも棒にも掛からねぇ、まさかの店に当たっちまうなんて事も、
いくばくか少なくなる…てなぁ訳ですな。

「好きこそ物のなんとやら」、
欲します気持ちに応えるための「専門」屋の、えぇ「プロフェッショナル」なご主人の、
集めに集めた右を向いても左を向いても旨いものばっかしーの、故の故の専門ですからね。
旨いもんの「殿堂」と謳う訳ですからね、
専門店ってぇとお通の方が足しげく顔を出す…と言うのは道理なのでございます。

信州松本には「銘酒居酒屋」なんてものがございます。
全国津々浦々の旨い日本酒を集めた専門店。
店の前には堂々と達筆な張り紙がしてありましてね、
「日本酒専門」と書いてある訳です。

この店主、鋼の様な肉体を持っていて、
言うならば「コワオモテ」ってぇやつだ。
常連を捕まえて聞いてみりゃ、
頼れる兄貴分、腕っ節も良ければ気立ても良い、
料理の腕前だって特級の市中随一の板前だと口を揃えて言うもんだから、確かなもんですよ。
気の良い男に違いはないが、初めて店に寄る客には、それが分からない。
店主の真剣な眼差し、酒を選ぶ眼、包丁を握って刺身を“すぅっ”と切り分けていく時の眼。
見事な酒裁き、手捌きだよ。
これを見て、
「はぁ、まるで鷹の目だ」と思った男がおりました。

えー、「鷹の目」ってぇと…
そうですね、あたしはやっぱり「鋭い眼光」なんて言葉を、
二の句に継ぎたく存じます。
本当のところ「鵜の目鷹の目」なんて言いましてね。
モノの本に寄っちゃ、鵜や鷹がそりゃあ熱心に食い扶持を探す事を言うそうです。
お天道さんに近い高い木の上から何里先も見やる。
見つけたら、ククーッと飛んでって、パクリ。
鵜だろうと鷹だろうと生活がかかっていますからね。
腹を空かせたかかあと子供たちがピーチクパーチク待ってんで…って、
そりゃあ尻羽ヒン剥かれる気持ちで飛んでんでしょう。

えー。
転じて、その“まなざし”…と言う事でして。
日本酒専門店の店主だけに、日本酒には明るい。
日本酒の目利きって奴ですな。
酒をお嗜みになる事を「酒を利く」とも申します。
だからこそ専門と名乗る。
酒の目利き、鷹の目が選んだ銘酒が並ぶ。

さて。
日本酒が好きな男は、人づてに噂を聞きつけてやって参りました。
信州松本は緑町に良い店があるんだそうで。
酒が好きなもんだから、
もっとお通になりたいと案じます。
旨い日本酒にありついてみたいと店の前に立っております。

男「おっ、邪魔するよ」

主「いらっしゃい」

「あらー」っと思うところを下足を脱ぐてんで屈んだ所でやり過ごす。
店に入る前にはくっくっと衿元を正して入ったら、これだもの。
鷹の目。
コワオモテだよ、えぇ?頑固そうだよ。
この酒はあーだこーだと講釈ばかりでは、オチオチ酒も飲んでいられません。
店主の頑固さを受けて酒がマズくなるなんざ、真っ平です。
そんな店主だったら嫌だなぁ…なんて、屈みながらチラリと見る。
おいおい、胸の筋肉が盛り上がってんじゃないか。やる気だねぇ、ええ?

男「ええと、ここは日本酒専門と聞いたよ」

主「へぇ、拙が日本酒が好きなものでして」

ニカッと笑う。
んん、なんだい、全然おっかなくないじゃない。ええ?
男はそれでも初めての店だ。
馴染まない席に通されつつ、辺りを見回してみる。

男「あれかい、良い酒、揃ってんのかい?」

男が落ち着かなそうに聞くってぇと、割り箸入れの奥のメニュウを指差して言う。

主「全国の銘酒が揃ってますんで、どうぞ楽しんで行ってください」

男はこれに気を良くします。
なんでぇ、気さくな主人じゃねぇか。

男「ええ?ここにある酒、みんな旨いの?」

主「拙は旨いと存じております」

選び放題だよ。これで気を良くしない酒好きがいるもんか。
表の「日本酒専門」と同じ字で、
酒の御銘があるわあるわ、ざっとひのふのみの…三十はありそうだ。

男「さぁて…」

男は喜んだは喜んだのですが、かえってどれを選んだら良いか分からない。
お見知りのある酒もあるが、お見知りにない酒もある。
どれを頼んだら粋な男に見えるんだろうねぇ。えぇ?
お通な客に見えるんだろうねぇ。

主「さ、何からご用意致しましょう」

男「……ううん」

世間様では、今時分の状況を「嬉しい悲鳴」なんてお言いだろうが、いかんせん困ったね。ええ?「ぐぅ」の音しか出ないよ。喉が鳴るばかりだよ。

困った男が、ふいっと目をやると、店主は前掛けをしておりました。
酒屋が腰に巻く前掛けってぇのは、多く酒銘が入っておるものです。

男「そうだ、それにしますよ」

主「へぇ…と申しますと…」

男が指し示すままに、店主は自分の腰に目を落とす。

男「うー、あう…、え、えっしゅう…」

それに決めてはみるが、なかなか読めない。

主「これですか。福島県の“かいしゅういち”と申します」

男「へぇ、かいしゅういちかい。ええ、初めて見るもんで。えー、その、なんだ、旨いかい?」

主「ええ。拙は気に入っております」

男「よし、そうか。ならお願いしましょう。ええ。そうします」

主「あい、承知致しました。…ルミさん、会州一をこちらへ!」

そう言って、店主は店の子に声を掛けます。
するってぇと、奥の冷蔵庫から酒が1本運ばれて来る。
店主はその逞しい腕で、一升瓶の腹をガッと掴んで、男の目の前に置いた。

男「おお、なんだか大層なもんだよ。随分、大事そうに持って来たね」

主「酒も商売道具ですからね。さ、お客さん、肴も何か気に入りがあれば、言ってください」

男「そうかい?どれどれ見せてもらいますよ…と」

「酒も商売道具」、何だか、こう…良い言葉だねぇ。
日本酒専門ってぇのは、こう言うことを言うんだよ。ねぇ?
他の店より、もっと酒を大切にしてるってんだ。

品書きには、「弥生十日木曜日・今宵の酒菜」と、これまた達筆な字で書いてありましてな。
乙なものでございます。
読むだけで、どれもこれも旨そうに見えて来るってなもんですよ。ええ。
「四角い顔も丸くする、視覚の効果も味のうち」なんて…言ったとか言わないとか。ねぇ。

男「それじゃあね、ええと、これとこれをもらおうかね。
 ああ、この辺りも旨そうじゃねぇかぃ、ええ」

男が品書きから選んで言うと、いつの間にか、先程酒を持ってきていた、
ルミさんが隣に来ていて、帳面を取っている。

主「…以上で?」

店主がそう聞くので、うんうんと男が頷くとルミさんは、サッと身を翻して戻っていく。

男「いやあ、見事なもんだね。あの体捌きってぇのは。きっと何かおやりだよ」

肉体派の店主に、見事な体捌きの手伝いの子…日本酒専門だから、
こんな玄人さんが集まるんだねぇ。ええ?いろいろあんだ。うん。
何だか、酒が入る前ぇから、
カルチャーショックてなぁ案配に、酔っちまいそうだね。ええ。

奇しくもこれが初めての店故の緊張が為せる技。男はまだまだ緊張しておりました。
ここからが居酒屋たるお楽しみでございます。
酔いの後には、すっかりご機嫌と相成りますので、酒落語、続けて参ります。

主「さ、お待たせしました。注いで参ります」

言うと店主は男の眼前、棚に空の升をカタンと木の音響かせ置いて見せると、
中にグラスを一脚、入れる。

その棚ってぇのが、男の目の高さより少し高いくらいに据え付けてあって、
男は酒が注がれて行くのを見上げるかたち。
電灯の光の中で、トットットッーッとグラスに酒が注がれていく。
真っ白い酒だ。それが器の出口、酒の飲み口に向かって満たされていく。
グラスの先には店主の真剣な眼差し。
一挙手一投足、足先から手の先までも心の入った注ぎ方に見える。

主「福島は会州一の純米にごり酒、用意できました」

男「へへぇ、いただきます」

店主から升が男に手渡されます。
ええ、何だかあんなに決まって渡されると、神妙な心持ちになるから不思議だね。ええ?

男「いやぁ、それにしても綺麗なもんじゃねぇか。この白さ!美しいもんだねぇ。福島!会津の雪の白さは肌の白さ、このにごり酒みたいに綺麗なものなのかねぇ」

男はクンッと鼻面を近付けて、香を嗅ぎます。

男「うん、うん。酒っぽい良い香だ。何だか米の粉が解けたみてぇな甘い香がするよ。はぁー、美味しそうだ」

男「へぇ、それじゃあね、皆様…って言っても私ひとりしか居ませんけれどもね。ええ、頂くとしますか。ねぇ。頂いてしまいますよーっと。
お待ちかねって奴なもんで。ええ。この香!この香!」

男はいよいよ以って酒を懐に引き寄せて、ひとくち。ゴクン。もう、ひとくち、ゴクン。

男「はぁっ、旨い!」

この男の酒を旨そうに飲むこと!
店主はそりゃあ嬉しそうに男を見ていたんだけれども、
酒に夢中で男はそれに気付きません。

男「何とも言えない甘さがあるね。えぇ?甘すぎるんじゃないよ。
 ええ、どっか品がある甘さで、サラッとしているんだ。
 米っぽいけど、米じゃない。
 米を搗き蒸したもんの、なんっとも言えねぇ上品さっつか、
 キレって言うか、ホワッと来て、サラッっと受け流す。
 そして、もう一杯飲みたくなる。何とも案配の良い酒じゃねぇか。」

そして、もうひとくち。

男「どぶろくなんてものは、あれはあれで旨いが、いささか重い様に思えちまうね。ええ?
 ゴクンゴクンだ。あんまり喉を鳴らして飲むもんだから、喉が疲れっちまうね。
 けれど、これはコクンコクンって案配だよ。随分と飲み良い。旨いもんだねぇ」

主「どうです。前掛けの酒、お気に召しましたか」

店主が棚からグイと身を乗り出し、聞いてくる。
男はそりゃあ良い顔をして「旨い」と答えた。

主「ひとつ、肴が出来ましたんで、お持ちしました。
 タコと胡瓜のごま油和え、お待ちどう様です」

陶器の縦長の器に、たっぷりタコとキュウリが入って見える。

男「あい、どうもどうも」

上には飾りで、ちょんと糸唐辛子が設えてあって、恰好良い。
タコの身の白、タコ皮の黒、キュウリの青さに胡麻の黄色がまぶしてあって、
糸唐辛子の赤が、器を締めて美しい…てぇ、もんだ。

男「やぁ、これは旨そうだね、ええ?頂きますよっと」

男はタコを摘んで、ゴリゴリ。
キュウリを摘んで、サクッカリッ。
口の中から、何とも小気味良い音が響く。
それが何とも嬉しく美味しい。

男「良い香だ!噛むたんび、塩と油の香がパッ、すぅ、パッと広がるんだよ!
 キュウリの水っ気が跳びはねて旨い、タコが噛んで噛んで揉んで旨い!」

そこで、男は「会州一」をひと口。

男「うん…、うん、うん」

男「酒がなんて旨く感じるんだァ、ええ?
 酒も、肴もスッと立っているねぇ、いやはや良いねぇ」

男は喜んで、次から次へと進んで行きます。

主「どうぞ、途中に水を差して酒を飲んでください」

そう言って、店主から瓶に入った水を差し出された…ってぇ言うから、男は怪訝な顔だ。

男「水。水……てぇのは、何なんですかい?」

これはもう酒を控えろてなぁ意味かと思うと、あんまり良い気分じゃありません。
酒でなく、水を飲めってぇのは、どう言う了見なんでしょう?

主「これはね、魔法の水なんですよ。
 飲んどくとね、明日の朝、酒が残らなくて良いんですよ」

男「酒が残らない?えぇ?本当にそんな事があんのかい?」

主「へぇ。和らぎ水と申しまして、名の知れた名水なんでございます」

男「名水!あれかい、山からの…ええと、あの、伏流水とか、こう、こんこんと湧き出る水とか、百選とか、そんな…あれだ、水なのかい?」

主「店によって、家によって色々ございますが、まぁ、水なら何でも和らぎ水になりますな」

男「…へぇ?」

男はキョトンとした顔だ。
名水と言うからには某かの言われもあろうに、何でも良いとは奇な事を言います。

主「まぁ、物は試しと言うものでございます。ささ、酒の合間に水を差してみて下さい」

男「…そうかい?水?酒じゃなくて、水を勧めるなんて、お通な店は不思議なことをするもんだねぇ」

男は訝しみつつも、グラスに水を注いであおります。
ゴクッ。
よく冷えた水が喉を通ると何とも言えない爽やかさを感じます。
それがとても心地好い。
水が旨い。目が覚めるようだ。

主「いかがですか。和らぎ水」

男「いや、それがね、美味しいんだよ。サッパリする。目が覚める思いだよ」

主「えぇ、それで酒がもっと進んで、明くる日に残らないてぇもんですから、
 魔法の水と称しておる訳でして」

男「魔法の水、和らぎ水。へぇ、良いねぇ。本当に酒が進むね」

男は初めて試す、酒と肴と水の組み合わせでしたが、爽快で、そして酒を飲み、肴を食べて、何とも居心地が良いと感じておりました。
箸は次々と踊るようにタコを摘み、キュウリを運ばせ、酒が見る見る減って行きます。

主「さぁ、話している内に盃が空きましたな。次は何をご用意しましょう?」

男「そうだね、益々、旨い酒を飲みたくなったよ。ええと、そうだね、ええ…」

「どうしたもんかな」と男には、再び「嬉しい悲鳴」がやって参ります。
気になる銘柄があるにはあるが、それで良いもんか、今一歩の押しがない。
手前の中で、それを頼んで良いもんかが、なかなか決まりません。
旨いもんを早く飲みたい、食べたい続けたいってぇ思うからこそ、
自分自身に焦れてきます。

男「えー、うん、どうしたもんかなぁ」

主「もし、お迷いならば、こう言うのはいかがでしょう」

男「へぇ…と言いますってぇと」

主「次の肴が出来ましたんで、それと合う様に、酒を見繕いましょう。いかがです?」

男「見繕うってぇと…」

主「平目のえんがわと酒盗を合わせたものが出来ておりますから、
 これにバッチリ見合う日本酒をお勧めさせて頂きます」

男「へぇ、そりゃあ良いや。ありがてぇ。正直、こんなに酒が並んでっと、
 どれを選んで良いか分からなくていけねぇ」

主「好きに選んでもらって、酒との出会いを楽しんでもらえりゃ何よりなんですが、
 手前共もそのお手伝いが兼ねてよりの生業となっております。
 是非、何でも聞いてください。
 酒との見合いの相談事ならば、何なりと応えさせてもらいます」

グッと店主は胸を張る。座って見上げる形の男からは、随分と大きく見えたものだそうです。

男「いやいや、えぇ?頼もしいじゃねぇか!おう!それじゃ、次の一杯はお願いするとしようか」

主「へぇ、ありがとう存じます。では、ルミさん、木曽路を持って来てくれや!」

するってぇと、再び奥の冷蔵庫から酒が運ばれて来る。
グラスが取り替えられ、再び男の眼前に酒が注がれて行きます。
電灯に煌めく綺麗な酒。

男「木曽路かい?木曽の酒、信州の酒なんだね」

グラスに並々と注いで、再び店主から受け取る。
先と同じ動作、気を張った見事な動作だからこそ、
店主はこうやって毎度毎夜繰り返している名人なんだと思わせる所作。

主「察しの通り、木祖村は藪原、湯川の酒でございます。
 銘を木曽路・特別純米大寒仕込みと発します。
 さぁ、えんがわの酒盗和えもこしらえてあります。どうぞ」

男「えぇえぇ、頂きますよ。これだけの酒の中から選んでもらったってぇのは嬉しいねぇ。
 ワクワクするよ。どれ、まず酒を頂こうか」

男はグラスの縁に口を寄せ、「木曽路」をズッ、とちょっと吸ってゴクリと飲む。

男「ぃやぁ、これは綺麗なもんだねぇ。
 おっと、喉を通ると口の中にちょっと甘みが残るよ。
 何とも言えず良い心持ちにさせるねぇ。ええ?
 森の中、朝の清い空気が浮かぶようだよ。
 それでいて、しっかと木が座っている。
 木曽路の風景が浮かぶような優しく芯の座った酒じゃねぇか」

そして、男は肴、えんがわを摘みます。
白くて艶っぽい身持ちを箸で摘もうとするが、
「えいっ…おっ、やっ…」、なかなか上手く摘めない。
2度3度して、捕まえてニヤリ。

男「なかなかイキが良いじゃねぇか、ええ?捕まえましたよ、おい。
 木曽路が渇いっちまうからな、いただきますよ」

パクリ。追って酒をひとなめ。
口をつぐんだまま、バンバンと台を打つ。

男「か~ッ!旨い!これは本当に旨いや!
 いやいや違うんだ、さっきのがイマイチだなんて野暮な事を言いてぇんじゃねぇんだ!
 旨い!」

男「なんだよ、ええ?酒盗ってこんなに旨かったか?
 塩っ辛い中に、旨味がパンパンに膨らんで詰まっているみたいだね、おい!
 ツルッと入って来るえんがわが、くにゅっとして、ほわっとして、
 なんだかちょっと甘くって旨いところに、
 酒盗のでっかい旨さが覆ってたまらんね、ええ?
 そこンところにこの木曽路だ!塩に良いねぇ。合うねぇ!ええ?!
 酒がシャンとして、シャチホコ張ってねぇで、
 塩に柔らか~く応えてくれているよ。これは旨いよ!!」

男はそれはそれは喜んで食べて飲んでおります。
店主はそんな喜ぶ様を見るのが好きなんでしょうな。
鼻唄交じりに次の肴に取り掛かっております。

和らぎ水を合間に挟んで、男はあれよあれよと木曽路を飲み干してしまった。
さて、今度は何を飲もうかと考える。
ご主人に選んでもらっても、もちろん、美味しいお酒に巡り会えるんだろうが、
このめいっぱい書かれた銘柄の中から選んでみるのも、
これまた楽しそうに見えて来る。
店主は良い言葉を使ってくれたじゃねぇか、ええ?
「酒との出会いを楽しむ」、何とも良い響きじゃねぇか。

男「さぁて、どれにしたものか、美味しそうなのか~っと」

眺めていく中で、何とも縁起の良い字面をした銘を見つけます。
実り豊かの「豊」に、正月賀正の「賀」を合わせた酒。

男「ご主人!次なんだけどね…」

主「へぇ、お決まりですか」

男「これこれ、これにしようと思うんだ。大層、縁起の良い名前じゃねぇか」

男は、トントンと品書きの銘を指差して言う。

主「おっ、トヨカですね。今、こしらえている肴には、そう言う厚味のある酒は合いますね」

男「私は、この酒の事を知っているか知らねぇか…っていうと、
 知らないんだけれどね、ええ、
 そう言われるとなると、益々飲んでみたくなっちゃうねぇ。嬉しいねぇ。
 ご主人、それじゃ…、えー、なんだ、トヨカをひとつお願いするよ」

主「へぇ、かしこまりまして。…ルミさん、今度は豊賀をこっちにくれや」

主「では、空いたグラスをお預かりいたしやす」

言うと店主は男の元から升を拾い上げ、再び綺麗なグラスと置き換える。
蓋を取って「豊賀」なる酒をトットットッ…と注いでいく。

主「長野は小布施、米川正宗が醸す豊賀、特別純米生原酒、お待たせしました。どうぞ」

渡されるそれをしっかと両の手で受け取ると、
男はそのまま升とグラスを引き寄せて、スンスンと鼻を鳴らす。

男「おぉ、これは香が良い酒じゃねぇか。えぇ?
 花の様だよ。ふわぁっと広がって来るね。おっと」

グラスの縁からいくばくかこぼれた酒が、男の手を濡らします。
するってぇと、指先からも酒の良い香が「ふわわん」と上って来る。
男はたまらなくなって、酒をグビリとやります。

男「こりゃあ、良いね。旨い。香が立つよ、ねぇ?
 香が鼻をスゥーッと抜けていくと何とも艶っぽくて良い香がするもんだ。
 香は華やか~な感じだってんのに、
 味はなんだ、しっとりした感じでふくよかなもんだよ。
 ちょっと口に飲ませただけでも、
 口いっぱいに旨いのが広がるよ、包んでくれるよ、ええ?
 嬉しいじゃないか。しっとりして柔らかくって甘くって旨いもんだねぇ」

男「なんだかこれだけで旨くって、
 肴なんてなくても良いんじゃないかって思えるよ。
 香に惹かれて、どんどんと飲めちまうね」

主「いやいや、どうして。次の肴が仕上がりました。
 柚子こしょうを利かせてお召し上がりを」

店主はそう言って次の皿を男に差し出します。
目の前を通って台の上に乗る道すがら、男の鼻先を通って行く…
何とも香ばしい、良い匂いが降りてきました。

主「鶏のしお焼きでございます。これと豊賀を是非、合わせてみてください。
 きっと良縁となります」

男「お、そうかい?そう言われちゃ試してみたくなるもんですな。ええ?
 それじゃ、まずは鶏を頂きますよ」

大振りの鶏肉がザックリ分けられてあるそれを男はひとつ掴んだ。
箸で掴んだ途端、皮面はパリッと音を立てる。
キッチリ良く焼かれた音は、何とも旨そうに感じさせます。

男「おっほ、熱い!こりゃ柔らかくてムチッとして良い肉だね、ええ?
 甘く塩が振ってあって肉の味が、より、美味しいよ。で、これだこれ!」

男は鼻に上って来る香に目を細め、喜ばないではいられない。

男「柚子こしょう、柚子こしょう!はぁ、何て良い香なんだ!
 パリッと香ばしい皮の香を割ってピリッと鋭い香を走らせる!
 いやぁ、体に電気が走るみてぇにピリッと来るのが良い心持ちじゃねぇか!」

男「そんじゃ、ここで豊賀を頂いてみるってぇと…どうだ」

男は箸を置き、今度はグラスに手を掛けて、ゴクリ。

男「…良い!旨い!」

男「香と香が当たって旨いんだよ、これ!えぇ?
 良い香同士がね、ピリッと来て、ふわわんと広がるんだ。
 そんで、鶏の旨さと塩焼きの甘みが酒と最後にガッと組み合っちゃうンだから、
 これもまた、たまらないねぇ!」

主「そりゃあ、何よりでございました」

男は、まるで夢心地で飲んでは食べる。
この世の天国みたいな心持ちで酒と肴を楽しんで参ります。

続いては、
松本の「女鳥羽の泉」、山廃純米原酒と言う、
こってり甘くほっこり優しい酒に、
季節の野菜や木の子、白身の魚を使った「揚げだしいろいろ」を合わせます。
しっとりたおやかな酒に、豊かなおダシの香、
ちょいと甘めのタレを忍ばせた風合が何とも美味しく、
素揚げされた野菜や木の子の色取り取りの味わいが、どれも光って旨い。

そこで、「早採りザーサイの浅漬け」を頼み、
ゴリゴリと良い触感、
口の中をサッパリさせるみずみずしい浅漬けの美味しさで、酒を更に嗜みます。

上質の漆の様に艶があり、
トロッと煌めく甘く煮立てた「鰤の煮付け」に、
奈良の銘酒「睡龍」の純米吟醸を合わせる。

思わず米が欲しくなる鰤の濃い甘み、甘っ辛さ、
深く染みる美味しさを男が喜ぶと、
店主は「酒は元は米なので、米に合うものは酒に合うんだ」と言い、
勧められた「睡龍」は、
金剛像の様なしっかり逞しい見立ての酒で、
鰤を食べて食べたいと思った
白いおまんまの旨さに勝るとも劣らない旨い日本酒でございました。

こうして男はひとしきり。
時が経つのも忘れて酒と食を楽しんで、
宵も深くなり、酔いも進んで、すっかり良い心持ちと相成りました。

その男、
店に入った頃は、「鷹の目」なんて言って
随分と緊張していたものですが、店主の気の良さにすっかり安心して、
いつしか酒を楽しんで選ぶようになり、
酒によって食がこんなにも活気づくものかと、
相性、組み合わせの良さ、そのお楽しみをすっかり覚えられ、
ひとつ頼むにも、あれだこうだとぐるり頭を巡らせて品書きを眺める様になりました。
するってぇと、不思議に思えて来るのが、店主の見事さ。
酒と食との相性を瞬時にズバリ、ピタリ…と言い当てちまうもんだから、
相当の手練(てだれ)、大したものだと思わせます。

男「えー、ご主人」

主「次ですか」

男「いや、違う。私は何とも良い心持ちになった」

主「それは、ありがとう存じます」

男「ご主人が選ぶ酒、出す肴、ピシャリとあって最高に旨い」

男「そして思ったんだ。いや思っていたんだって…感じかね。
 えぇ。言いにくいけれど、とっても興味があるんだよ。ええ」

店主はそんな焦らされるような言い方じゃ何も分からない。
「へぇ」とだけ相槌を打って言葉を待つ。

男「えー、その、なんだな、全国の酒と肴を合わせる極意ってぇのをひとつ聞いてみたいんだ」

主「…極意ですか?なんの?」

男「なんのっ…て。その鷹の目の極意ですよ。狙った銘酒は見過ごさない、
 食わなきゃ分からない酒と肴の恋仲を、あれよあれよと見破っていく。
 えぇ、そんな極意ですよ」

主「そんな極意なんてありませんよ、酒も肴も旨いんですから」

男「いやいや、そんな訳はないんだ。ええ?
 こんな見事な店になっているんだ。酒も肴も本当に旨いよ!ねぇ?」

男「どんなもんでも極めるからこそ専門店だ。日本酒専門の戸立に偽りはないだろう?」

男「頼む!ええ、頼みますよ!今日ここでこんっなに良い心持ちになったのも何かの縁だ!」

男「教えてください!お願いします!」

主「あらら、お客さん、顔をあげてくださいよ」

主「楽しんでもらったんなら、拙はこれ以上嬉しい事はない。ありがてぇ。
 ここに来る前より、もっと日本酒を気に入ってもらえたんなら、本望って奴だ」

主「ただ、極意ってぇのに思い当たるものはねぇんです」

男「いやいや、後生ですよ。ええ。本当に。鷹の目の極意をどうぞ教えておくんなさい」

ここで店主はちょっと思案を致しまして。

主「極意って程でもないが、ちょっとしたコツならあります」

男「本当ですかい?そりゃあ何より知りてえもんだ!」

ニン!と店主は笑って言う。

主「良いかい?それを飲んで、よく聞いておくんなさい」

鷹の目の極意を聞こうと、言われるままに男は酒をごくり。うん、旨い。

主「鷹の目の極意はねぇ…」

男「へぇ、鷹の目の極意とは?」

主「 ただ飲め 」

小難しい事を考えずに、ただ美味しいものを美味しく飲むのが、
いちばんの極意と言うことで、おあとがよろしいようで。






















あとがき……………………………酒落語・その弐

この度は、お読み頂きまして真に御礼申し上げます。
少しでも日本酒に手が伸びそうなお話に思って頂けたのならば、
私としても幸い至極にございます。

ある松本のお店を思い浮かべながら書かせて頂きました。
数年前より恩のあるお店で、
松本で日本酒を美味しく頂いて、過ごして行ける、
その自分の中での根幹に位置するお店の中のひとつでございます。

その店主をして「鷹の目」と言うタイトルは、
数年前、自分が通い始めた頃のメニュウに、
「根は気の良いやつなんです」と小さく書かれたそれが、
何とも気さくで、ほほ笑ましく、気に入ったものでした。
逆を言えば、
強面に見られもすると言う事で、今回のカラクリになっております。

落語とはオチ、サゲのあるもので、
何度となく登場させた「鷹の目」と「ただ飲め」の引っ掛けでございます。
口に出すとその口調で符合が合いますが、
文章では、なかなか伝わり難いやも知れません。

そのお店の中の名言に、
「酒は、ウマイ か スゴイウマイ しかない」と言うものがございます。
その通り。
小難しく飲んでも美味しいものですが、
何も考えずに楽しんで飲むのも最高に良いものです。
これから酔うってんで肩の力が入ったまんま飲んでも、
大して美味しさに気付けないかも知れません。
気張らずに、
気に入る、気に入らないもの、数多、出会うものでしょう。
それを実に楽しんで夜を過ごして行く事が出来ればと願い、
酒落語「鷹の目」を書かせて頂きました。

本当のところもありますし、フィクションのところもありますし。
実際に、そのお店、
もしくは素敵な松本の日本酒居酒屋に足をお運び頂いて、
1杯でも多く、旨い日本酒を知って頂ければと願い奉りまして、
以上、筆を置かせて頂きとうございます。

「酒 宗夜」SOJA(宗夜 苳治)

前回、「かんどころ」を書いた頃に比べてみると、

落語を一切聴いた事がなかった当時から、

実際に足を運び、耳を傾けた分だけ、

自分としても落語を好きになって取り組む事ができました。

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2010年8月26日 (木)

酒落語「 かんどころ 」

「 かんどころ 」

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酒は燗に限る、冷(ひや)に限る。
これ聞くあなたのお隣は、さぁ何とおっしゃいますやら。
でんとちゃぶ台の前に鎮座ましまして、「はい、お前さん、お酒」なんてね、
家で好き勝手飲んでりゃ、燗酒も冷酒もどちらも天国なんでございます。

けれどね、街場に出てみりゃ家の中じゃお目にかかれない縁もお生まれですよ。
居酒屋だってバーだってスナックだって隣のお人は知らないお人。
仲間で行けりゃそりゃ楽しいものでございます。
仕事のお話、ご趣味のお話、酒に肴に話が咲けば酒を語りはしないもの。

ですからね、袖振り合うも他生の縁なんて言うじゃありませんか。
隣り合うお人もおひとりならば、あたしもおひとり。
世間じゃ「おひとり様文化」なんて言いますよ。
ふとした会話が、楽しい呑みの時間を下さるかも知れませんよ。
会う日で合う人、合わない人も千差万別十人十色、
酒は燗に限る方もおりましょう、冷酒しか飲まぬ方もおりましょう。
酒は世に連れ、世は人に連れ、器を空にいたしますれば、
酔いは深まり、縁が近くもなる一夜のお話。

洋「大将、次のお酒をくださいよ」
大「はいよ、何をあげようか?」
洋「大将の造るなめろうがめっぽう旨いもんだからね、これに合う酒がいいんです」

信州信濃は松本のある居酒屋、
洋一なる男が酒を楽しんでおりまして。
店の大将の“なめろう”には、鯵の身とお味噌だけでなく、
胡麻も大葉も混ざり合って、何とも旨い…と来た。
色んな香が噛む度に、ふわあっとするもんです。
旨い肴に旨い酒、きゅーっと、これが幸せ!ってね。

大「佐賀の鍋島なんてどうだい?洋一さん」
洋「大将の選ぶお酒は美味しいからね、それをもらいましょう」

差し出された利き猪口にとっとっとと、酒が注がれる。
嬉しそうに洋一は勢い余って酒の水面に鼻先を突っ込んじまった。

大「はっはっは、洋一さん。酒は逃げやしないよ」
洋「この酒、良い香がしますよ。鼻に花を乗っけたみたいだ」

早速、ごくり。

洋「旨い。あぁ、香がまるで生きている様だよ、大将」

言うと洋一はなめろうをつまみ、またごくり。

洋「味噌の香、大葉の香、鍋島がさらっていくね。香が何度も追っかけてくる」
大「そうかい、そう言ってくれると嬉しいねぇ」
洋「なめろうに冷酒、たまらないです」
大「そうかい、そうかい」

そのやり取りを見ていたカウンター奥のひとりの男。
名を宗田(むねた)と申します。

宗「なぁ、大将。こっちにも酒くれや」
大「あぁ、宗田さんすまないね。何をあげようか?」
宗「その酒でいいよ、大将」

洋一と大将のやり取りを見ていて、何事か思ったのか、
宗田はカウンターの上の一升瓶を指差します。

洋「鍋島、美味しいですよ」

気を良くした洋一。
宗田は洋一にとって見知らぬ男でありましたが、
同じ信州松本に住んで、こうして街場の居酒屋、
大将がひとりで切り盛りする店で、巡り合うのは縁と言うものでしょう。
同じ酒を楽しもうとするならば、尚更に、でございます。

宗「あぁ、それでいい。ただし熱燗にしてくれ」

じろり。
洋一を見やります。

大「宗田さん、これを燗にするのかい?」
宗「そうだ。酒は燗に限るだろう」
大「この酒を燗にしたことはないんだけどね…はて、どうなるかな」
宗「酒は燗にしてこそ本物だ、早く燗にしてくれ」
大「あぁ、分かったよ。熱燗だね」

そう言うと大将は徳利に酒を入れて調理場へ。
洋一はなんとも気まずい思いになります。
それもそのはずです。
冷酒で美味しいと言っていたものを、
目の前で燗酒にするとは性質の悪い話。
洋一はいかんとも堪え切れず利き猪口を持ち、ひと口。
酒はこんなに旨いのに、何とも気分が晴れません。

宗「いいかい、お兄さん」
洋「!」

びくり、洋一は驚いて酒をほんの少しこぼしてしまいました。

宗「今日は機嫌がいいからね、俺ぁ機嫌がいいから特別に教えてやろう」
宗「まずな、酒の一滴は血の一滴って言うもんだ」
宗「今、お兄さんがこぼした酒も杜氏さんの命が入っているんだ」

何とも気まずい。
見れば宗田と言う男、なかなか酒を過ごしている様子。

宗「酒は燗酒に限るんだ。それも飛び切りの熱燗だ」
宗「本物の酒はな、燗酒にすると分かる。偽者の酒はな燗酒でまずくなるんだ」

大「はいよ、あがったよ。宗田さん」
宗「おうおう、大将。どれ、こっちに。もらうよ」

宗田は大将の手から奪うように、ぐい、と受け取ります。

大「熱くなっているから、気をつけておくれよ」
宗「あちち、わかって…おお、熱いな。ちゃんと沸かしてくれたんだな」
大「沸かしてなんてないよ、46度あたり、上燗だね」
宗「そうかい、上燗?上等の燗ってことだな」

器に注いで、ぐいっとやります。

宗「おお、旨い。この酒は本物だ」
大「日本酒はみんな本物だよ。本物ってなんだい宗田さん」
宗「酒はね、燗酒にすると偽者かどうかが分かるって話よ」
大「そんな話は聞いた事が無いねぇ」
宗「そうかい?」

ぐい、ぐい、ぐい。
旨い旨いと言いながら、次々と盃を重ねます。

大「日本酒はね、みんな美味しく飲まれるために生まれてくるからね」
大「みんな本物だし、美味しいものだよ」
大「ただ、ちょっと好みに合わないものもあるかも知れない」
大「洋一さん、その酒は旨いかい」
洋「ええ、すごく美味しいです」
大「それでいい。自分が美味しいかあんまりなのか、それだけわかっていりゃいいんだ」
宗「いやいや大将、酒は燗酒に限るだろう」
大「そうだね、宗田さん。宗田さんが美味しく呑んでいるんなら、本望さ」
大「さっき洋一さんに注いだ冷酒も宗田さんに燗した酒も天寿を全うしたんだよ」
宗「いやいや燗酒がな…」

酔っ払いの話とは取りとめのないものです。
宗田はまだまだ話が長引くようで。
洋一はひとまず自分は抜けたと、再び酒を楽しみ始めました。

宗「では聞くが大将はどうやって酒の良し悪しを見てんだい」
大「良し悪しってなんだい。うちの酒はみんな良いものだよ」
宗「大将の店の酒はみんな旨い。かかあが買ってくる酒はまずい」
宗「大将には…、あれだな、あれ。居酒屋店主の勘どころってぇのがあるに違いない」
大「そんな大層なものはないけどねぇ」
大「ただ、宗田さんが食べている煮魚と燗酒は合いそうだね」

そう言うと食べ散らかした煮魚を差します。
大将の煮魚は冷たい煮こごり付き。
煮た後冷ましているもので。
甘いタレ、醤油の塩気も甘露に感じる仕上がりでございます。
プルプルッとした煮こごりが、
口の中で融ける時にね、燗酒をひょっと。
味をくべるとまた広がって乙になります。
煮こごりから、旨いダシが融けて広がるんですな。

宗「さっきから酒が進んでいけねぇなぁ」
大「美味しいんなら、それで良いじゃないか」

洋一には厄介な客にも見えた宗田ですが、
もう洋一には目もくれず、酒と煮魚を交互にやっております。

洋「あの、大将」
大「すまないね、洋一さん。何をあげようか」
洋「虹鱒の燻製をもらえますか」
大「ああ、分かった。はいよ、お待ちどうさま」

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皿には大将の家の庭から取ってきた大葉で飾られた虹鱒。
所々焦げており、良い焼き色でお化粧されておりまして。
あんぐりと口を開け、虹鱒はこちらを睨んでおります。

大「骨まで行けると思うんだけどね。ちゃんと火を通したはずだから」
洋「火を通した。…ええ、これ、大将がお作りになったんですか」
大「庭でね、簡単なもんだよ。桜のチップで燻したんだ」
洋「虹鱒の燻製、初めて食べます。やぁ、いい香だ」
大「そう言ってもらえると嬉しいねぇ」
洋「じゃあ、これに合うお酒ももらえますか」
大「あぁ、いつの間にか空になっていたんだね。どれ、何をあげようか」

そう言って大将は吊り下げられている酒の札を眺めます。

宗「なぁ、大将。そう言う時に勘どころが働くんじゃねぇかい」
大「なんだい、宗田さん。勘どころ?さっきの話かい」
宗「そうだよ。大将。なんの酒を出すんだい」
大「虹鱒の燻製に合いそうな…そう、これか、これを考えていたんだけどね」
宗「ほうら、やっぱり勘どころが利くんじゃないか、流石だね」
大「そうかい。なぁ、洋一さん、このあたり行ってみないか」
洋「ええ、燻製を作った大将が言うんだから合いそうですね」
宗「おう、大将。その酒をこっちにもくれや」
大「ああ、いいけれど…宗田さんの好きな感じじゃあないかも知れんよ」
宗「そんな訳はあるか。酒は燗に限る。本物の酒なら好きに決まっているだろう」
大「本物偽者って、そんなのはないけどね…まぁ、飲んでみておくれ」
宗「あぁ、いや待て。大将、ちょっと待ってくれ」
大「なんだい、やっぱり止めるのかい」
宗「そのお兄さんと同じで良い。冷やで出してくれ」
大「燗でなくて良いのかい」
宗「大将の勘どころが旨いって言っているんだ、冷やが良い」
大「勘どころ勘どころ…ねぇ。洋一さんや宗田さんの好みは知らなかないけどねぇ」

大「これはね、近くの善哉酒造のお酒でね。じっくり寝かしたもんだ」
宗「酒が寝るのか。ぐうたらな酒だな。肉が余ってかかあみたいにまずいんじゃねぇか」
洋「熟成酒ってことですよね」
宗「熟成?」
大「そうだね。洋一さん。いいかい、宗田さん。蔵で寝ていたお酒でね」
大「新酒や生酒とは違ってね、しっとりとろり、旨いもんだよ」
宗「熟成なら旨そうだな。おとついラーメン屋で熟成味噌を食べたぞ」
大「そうかい。ま、飲み頃を図った味わいとでも思っておくれ」
宗「大将の勘どころで図ったんなら間違いないな」
大「図ったのは蔵元さんなんだが、まぁいいね。ほらふたつ出したよ」

洋「甘い香がしますね。蜜みたいだ」
宗「おい大将。酒が黄色いぞ」
大「熟成酒にはそう言うものあるんだよ。お月さんみたいに金色に光っているんだよ」
宗「お?おお、そりゃあ風流だな」
洋「虹鱒の燻製の香とお酒の甘いこってりした香、合いますね」
大「そうかい、嬉しいねぇ」
洋「あと、とろっとした舌触り!」
洋「口の中にほっこり残って、気持ちが良いお酒ですね」

よっぽど気に入ったのか、
洋一さんは手のひらで包むように猪口を持ちます。

宗「なんだい兄さん、そんな女みたいな飲み方しちゃって」
大「いいんだよ、美味しいお酒を大切に飲んでもらって、こんな嬉しい事ないよ」

宗田はさぞ男らしく振る舞おうとしたのか、
煮魚をつまみ、猪口をグイ。酒をあおります。

宗「おお、うむ。うーむ」
大「宗田さん、どうしたィ。しかめっ面で」
宗「大将の勘どころの酒だ。まずいわけが無い」
大「口に合わないかい?」
宗「いや、まずくは無い。きっと熱燗にすればもっと旨い」
宗「なんだな、そのお兄さんが言う甘いのが分からん」
大「甘い…?あぁ、もしかすると煮魚がいけねぇのかも知れんね」
宗「何を言う。大将の煮魚は上物だ」
大「煮魚、甘く仕立ててあるからね。甘いと甘さが重なったのかも知れないな」
大「ほら、舐め味噌をあげるよ。これで合わせてみておくれよ」
大「洋一さんも、これでやってみると良い」

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洋「ありがとうございます。とっとと、どれどれ」
宗「こりゃ儲けたね、頂きますよっ…と」
洋「ちょっとしょっぱ甘くて、あぁしゃべっているうちから味噌とお酒の良い香が繰り返しますね」
宗「な、なんだいなんだいさっきから小難しい講釈を」
大「いいじゃないか、宗田さん。美味しいって言ってくれてんだからね」
宗「俺は哲学者じゃないからね、そんな言葉は出ないな」
大「で、どうだい、味噌とは合うかい」
宗「そ、そうだね、味のコンチキショウが合うね」
洋「コントラストですかね」
宗「おお、それだそれだ。だがね、燗酒にしたらもっと旨いね」
洋「では、これはどうです?虹鱒の燻製なら、この温度が美味しいですよ」
宗「今日はツイてるね。前から横から次々と肴が出て来るよ」
宗「どれ」
洋「どうです。虹鱒の香とほっこりの香が合いませんか」
宗「ううむ、さっきから言うほっこりってぇのがイマイチ分からんね」
洋「ほっこり…にっこりする感じですよ」
洋「虹鱒も美味しくてお酒も美味しくてにっこり」
宗「おん?消し炭んなったトコでも食べたか」

宗田は口の中をモゴモゴとさせ、言います。

大「見て出したんだけどね、何か引っかかったかい?」
宗「やや、消えた」
宗「なんか知らんが、飲んだ後にじわっと苦かったな」
洋「飲んだ後ですか」
宗「悪いね、お兄さん。せっかくもらったんだが」
洋「おかしいな。飲むたびに甘みが優しくて、虹鱒に合って来る感じがしますよ」

洋一さんは虹鱒と手に持ったお酒とをやり合います。
それを見ていた大将。

大「ははぁ、洋一さん、燗をつけたんだね」

にんまり、笑って言います。

洋「燗…ですか?」
大「すまないが、洋一さんのその手ん中のお酒をね、ひと口上げてやってくれないか」
洋「僕のお酒ですか?」

これは何とも解せないお話です。
ひとつの一升瓶から出て来たお酒。
注ぐ所を見ていた、洋一も宗田も狐につままれた様な顔。

洋「まぁ…大将が言うなら、試してみておくんなさい」
宗「おお、今度は酒までやってきたぞ」

ぐびり。
洋一からもらった虹鱒をちょっと取り、ぐびり。

宗「こりゃ旨いな!」
洋「えっ。どういうことです」
宗「これも上等の燗酒だ。上燗ってヤツだな。ちょっとぬるいが旨い」
宗「酒が甘くて旨いな。お兄さんはこれを言っていたのかい」

宗田は喜んで、大将はなお笑顔。
さぁ、分からないのは洋一さんの方で。

洋「大将、何が起こっているんです」
大「わからないかい?洋一さん」
洋「とんと皆目、分かりません」
大「洋一さん、酒をずっと手の中で温めていたろう」
大「ほんのちょっとね、ちょっとだけ温められてね」
大「このお酒にちょうど良い温度になっていたに違いない」
大「なんなら宗田さんのお酒をもらってみると良い」

そう言って洋一さんは良い気分の宗田さんから、
猪口を受け取って、ごく、ごくり。

洋「あっ、ちょっと冷たい」

そして虹鱒をひと口。

洋「余韻が少し苦い…かも。ちょっとの温度でこんなに変わるんですか」
大「だろう?洋一さんの手の温度が伝わったんだね」
宗「こりゃ、ほっこりにっこりだ」
大「これが本当の人肌燗だ。ねぇ宗田さん」
宗「お兄さん、アンタも“勘どころ”が分かっているとは御見それしたよ」

いつの間にかおふたりの間の壁も融け、おあとがよろしい様で。

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お目汚しの後口上。

ブログの冒頭にそれっぽい口調で書くことはありましたが、
こうして「落ち」を相応に考えてみて、
全編書いてみたのは初めてでございます。
拙いもの、お読みいただきまして、本当にありがとうございます。

中盤に説明が多く、まだまだと言った出来。
もう少し、落語らしい雰囲気と、
素晴らしいくだらなさを織り込まないといけませんし、
噺家さんの事を一切考えていない、
落語と言うよりシナリオと言う内容は、
徐々に改めて行く事が出来れば、と思います。
燗酒の温度については、
街場、「アツカン」とよく聞きます。
それを知っていなくとも良いのだけれど、
燗酒の温度には名前がついており、
飛び切り燗→熱燗→上燗→ぬる燗→人肌燗→ぬる燗…
…と温度帯が分かれています。
日常、それらを目にする事は、あまりありませんが、
温度によって味わいが変わるのは、茶飯事でございます。

今回は松本のある居酒屋さんをイメージして書きました。
筆者の中では「大将」は「大将」であります。
登場人物の「洋一」と「宗田」については、
分かる方には分かる名付けでございましょう。
フィクションとノンフィクションの間でありまして、
「鍋島」がそのお店にあるのは本当。
「虹鱒の燻製」や「なめろう」も本当。
「善哉」の熟成酒は別のお店で飲んだものです。
「善哉酒造」が近くにあるのは本当です。
(旅第5回信州SAKEカントリーツーリズムで登場します)

先日、思いがけず次の「落ち」を発見致しまして、
1本限りで仕舞いではなく、
もう少し、書いて行く事が出来そうです。
次の居酒屋さんは、
「善哉」の熟成酒があったお店が舞台。
これがいつになるかは分かりませんが、
もし、再び、お読み頂けるのであれば、
よろしくお願い致します。

実の所、落語を1度も見た事がありません。
勉強不足、甚だしいものですが、何卒。

2010年8月25日・宗夜苳治(Soja Touji)

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